第一章 花残月 

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「新任の美術の先生がかっこいいって、みんなSNSで騒いでた。昨日誰かが職員室で見かけたんやって」  とスマホをいじりながら言った。 「へーそうなん」 「美月が興味ないんはわかるけど、今日クラブあるんやろ? 感想聞かせて」  そうだった。今日の放課後、新任のクラブ顧問との顔合わせだった。みんなが騒いでいるという美術教師が、今度美術部の顧問になる。なんだか気が重い。  三月で退職した、前任の顧問の先生はのんびりしたおじいちゃん先生で、お話がおもしろくて大好きだった。最後にクラブ全員で涙ながらに送り出したのが、もうすでになつかしい。  その時、新しい顧問が新卒の若い男性教師だと聞かされて、がっかりしたのは私だけだった。  美大受験を控えた私は、これからの進路をその美術教師に相談しなければならない。 「嫌やなーって思ってるやろ?」 「うん、前の先生がよかった」  気落ちしている私の肩をだいて言う。 「ほんま、枯れ専やな。美月はもうちょっと、若い男になれとかな。美大いったら男なんてうようよしてんで」 「さっきは、男の人に気をつけろって言ったやん」
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