第一章 花残月 

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 風のように美術室から去って行った。ピシャリと戸が閉まった瞬間、教室中大騒ぎとなった。 「ほんとに、かっこよかったな」  うっとり夢見心地で島田さんが言った。 「そうかな?」  私は、島田さんの気分に水をさすように、そっけなく言った。 「えークールで大人な感じ、かなりなイケメンやん。有賀さん、気をひこうとわざと筆箱落としたんと違うの?」 「違うよ!」  そんな訳あるかい! 島田さんは、いい人なんだけどこういうなんでも、恋愛に結び付けようとする所が私には、ついていけない。  なんだか、気分がささくれている。桜の精とか女神とか人の事さんざん持ちあげといて、気付かないなんて最低だ。  んっ? なんで最低と思うんだろう?  私はため息とともに、思考を停止した。
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