第一章 花残月 

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 デコボコした幹。枝は、四方に広がりその重さに耐えられないのか、いたるところを杖で支えてもらっている。でも、いたいたしい姿とは裏腹に、毎年春になると当たり前のように、可憐な花弁がその身を覆う。  その姿が二年前に他界した、祖母にかさなる。  大好きな祖母は、癌に蝕まれた体でも、最後の瞬間まで、当たり前のように微笑んでいた。祖母が元気な時は、毎年二人でこの桜を見にきた。今は私一人、この老桜に会いに来る。  一対一で向き合いたいから、他の人が来ない、早朝に。  霞がかった白い空を背景に、ぼんやり桜を見上げていた。なんだか今年の桜はよりどころなく、寂しげに立っているようだ。去年はただ綺麗としか感じなかったのに。  ふと涙が出そうになり、視線を下に向ける。誰もいないと思っていたら、人影が目に飛び込んできた。幹の陰に隠れて、気付かなかった。  その人は、アウトドア用の椅子に腰をかけ、スケッチブックとにらめっこしていた。伸びた髪が顔をかくし、遠目には性別も年齢もわからない。
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