第一章 花残月 

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 年齢的に、美大生かな? 薄い瞳の色に、白い肌。どこか日本人離れした容貌。けれどのびすぎた髪が、端正な容姿のマイナス要因となっていた。かっこもよれよれのカーキのカーゴパンツに黒のフリースジャンパー。あまりセンスを感じない。  絵描きさんは何もしゃべらない。朝の柔らかな日差しをうけ、醒めたくない夢の中で遊ぶ少年のような顔をしている。  しびれを切らし、 「桜の絵を描いてるんですか?」  と言い終わるかどうかのタイミングで、春の強い風が吹いた。  スケッチブックは風に煽られ、ページがぱらぱらとめくれる。その上に置かれていたパステル諸共、地面に落下した。落ちたパステルは枯れた芝生の上に彩りをまき散らす。  私は波打つ長い髪を手で押さえ、振り返る。桜は、花で覆われた枝をしならせ、暖かな春の風を、老いた体全体で受け止めていた。  花びらが散らなくてよかった。  絵描きさんは慌てて、スケッチブックを抑え込み、四つん這いになってパステルを拾う。悠然と立っている桜とその姿の対比がおもしろい。私は澄ました顔で、拾うのを手伝った。 「拾ってくれて、ありがとう」
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