第一章 花残月 

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 私の目の前に立った、絵描きさんは背が高い。低くてよく通る声でお礼を言い私の目をじっと見る。 「誰もいないと思ってたら、突然声をかけられてびっくりしたよ。目の前に桜の精が現れたのかと思った」  照れたように視線を外し、髪をかきあげる。  面と向かって、恥ずかしいセリフを言われた私の気持ちは、かなりドン引きしていた。でも、絵を見せてもらいたい一心で、なんとか逃げずに踏みとどまる。 「私、そんなふけて見えます? この枝垂れ桜おばあちゃんのイメージなんやけど。だって、この桜かなりの高齢ですよ」  ちょっと、素直な気持ちで反論してみた。 「ちがうよ! 年はとってても毎年花を咲かせると言う事は、桜は死と再生の女神なんだよ」  むきになって否定する。その勢いに押され、私は若干背をそらせた。  ダメだこの人、私の事ナンパしてるんだ。  友達の砂羽ちゃんと二人、学校帰りに四条に買い物に行くと、かなりの頻度でナンパされた。彼らの誘い文句の中には、君は女神だ天使だとか、歯の浮くようなセリフが多い。  私のいぶかしい視線を感じたようで、 「あっごめん! ナンパしてるわけじゃないからね」
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