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絵描きさんは、枝垂れ桜を眺めながら恥ずかし気もなく、思いつめた顔で答える。
その表情が、私の心をざわつかせる。風に煽られた桜の花びらが舞い散る様に似ていた。
「やばい、時間がなかったんだ」
絵描きさんは突然叫び、画材や椅子を乱雑に一つにまとめて、私を振り返る。
「俺ここによく来るから、また会おう」
そう言い残し、どこかに風のように走りさっていった。
なんだったんだろう、今の人。表情がくるくると変わって、とらえ所のない不思議な人。でも私には、そんなの関係ない。
参拝客がちらほら歩きだした境内を後にして、自転車で帰途につく。
走りながら思い出した。結局絵を見せてもらってないことを。これでは、なんのために勇気を出して話かけたかわからない。
それにしてもああいうシチュエーション、少女マンガかよってつっこみたくなる。まさに、ガールミーツボーイ。こんなんで恋が始まるなんて三流マンガもいいとこ。私は絶対恋なんかしない。
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