回想 2顛末

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回想 2顛末

 夢見草は、村のはずれの丘の上に植えた。一年目は貧相な棒っ切れのような苗だったが、次の年には小さな花と葉をつけた。かわいらしい白い花だ。村の子どもたちが物珍し気に見に来た。さらに翌年には枝を広げ、私の背丈を越えた。追肥をしたり虫を取り除いたり、なかなかに手間はかかったが、手を掛ければ掛けただけすくすくと成長していった。そして、五年もたつと、カラスが言ったように、視界いっぱいに真っ白な花を咲かせるようになった。春になると、美しい薄紅の雲のように咲く花を見ようと村人たちが集まってくる。心なしか、私と村人との距離が近くなったような気がした。  しかし、そんな平和な時間もつかの間、 私が任されていたヒツジたちがオオカミの群れに襲われたところから、亀裂が生じ始めた。もとより、変化の能力を持った血縁を持つ身。動物を見ると、もしや血縁者かもしれないという思いは、どうしてもぬぐえなかった。これまで、オオカミの群れを見ると、僅かな糧を与えて去ってもらうということを繰り返してきたのだが、今回はそうはいかなかった。やはり、動物の性格も様々で、強欲なものもいる。こちらが提供した(にえ)だけでは満足しきれず、群れを襲ったのだ。もちろん反撃はし返した。ところが、その様が村人には「仲間割れ」のようにしか映らなかったようだ。これまでの行いから、かばってくれる村人もいたが、だんだんと居づらくなり、結局この村も離れることにした。後任の男に、夢見草の世話を託して……。  再び旅の空に身を置く者になったころ、ある宿場町で「異能の者たちが集まる場所が、大陸の北にあるらしい」という噂を聞いた。人里に紛れては疎まれて弾かれることの繰り返しに飽いていた私は、安心して腰を落ち着けられる場所がある可能性に心躍らせた。ヒトの情報だけでは限界があったので、鳥に変化して情報を集めた。北へ渡る渡り鳥から「これまで誰もいなかった北の山奥に、最近町ができている」と聞き、確信を得た。そこへ行けば、同じような仲間がいるかもしれない。そして、一路、翼を北に向けた。  玄の国は、最初は小さな集落だった。ニンゲンとの共存に限界を感じた者や、初めから疎まれてニンゲンを嫌う者もいた。それは、家族だったり、血のつながりを持つ縁者一族だったり、もちろん、私のような独り者もいて、集まっていた者らの出自は様々であった。やがて、集団の中では有益と思われる力を持ったもの数名が、国の代表として皆を取りまとめようと動き出した。私のように機動力のある者は、大陸に散らばった「生きづらさを感じている異能の者」たちに働きかけ、少しずつ引き入れて民の数を増やしていった。  そして、私はカラスと再会した。 
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