悪魔の誕生

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悪魔の誕生

 記憶にしか残っていない街。古き時代、誰も知らない街。そこの奴隷の女が、処女を守りながらも、受胎し、女の子を産んだ。  その子供は、産まれる前からも後からも、幾度となく殺されそうになった。処女受胎など不自然で不気味であるし、何より奴隷に子供は足手まといだ。  そして母親は間もなく死んだ。産まれる前から子供を殺そうと何度も試みられる、すなわち体に重大な負荷を加えるということが祟った。それでも子供は死ななかった。  毎日、致命傷を負っていたはずなのに、ずっと生き続け、ついに子供は働けるほどに成長した。ここまで育てばもう利用できる、足手まといにはなるまいと仕事を与えた。  仕事ぶりは極めて優秀だった。しかし、彼女は不可思議な力を使って仕事をこなしていた。人々は恐怖し、捕らえて、また殺そうとした。無駄なのは皆分かっていた。だが、そうすることで恐怖が紛れるような、そんな気がしてたのであろうことは否定できない。  だが、愚かな市民は想像していなかったのだ。その不可思議な力が自分に向く可能性を。  街はすぐに滅びた。記録を残す文化はあったのだが、その記録も完全に抹消され、未だにその街は歴史的に存在しなかったものとされ、この滅亡をもって完全に途絶したテクノロジーも多いとされる。  そんなことは、知ったことではないが。
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