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両脚を割って自分の身体を滑り込ませ、熱を押し当てつつ明け透けにそんな風に伝えてしまう俺には、余裕なんか全く無い。
例えばこいつの言う勝ち負けが、
"優位に立っているのはどちらか"
とか、そういう勝負なのだとしたら。
「とっくに勝敗、ついてただろ。」
「…え、?」
お前の反応にも言葉にも、出会った頃から心臓の動きを占領されているこっちは、確実に負けている。
「馬鹿は、分からないままで良い。」
「…なん、なの。」
最初からお前の不戦勝だと伝えたら、きっとこいつは色々と尋ねてきそうだと予感して、話を無理矢理に終わらせる。
ハテナを浮かべている女に気付かれないように軽く笑って、ゆっくり自身をその中心に埋めると、また甘く嬌声が上がった。
「っ、!」
少し、腰を揺らすだけで想像以上の圧迫感に自分の顔が歪んでいくのを自覚する。
息が詰まる感覚をなんとか逃せるように、目を閉じて深い呼吸を2、3度重ねていると、また眉間辺りに何かが触れるのを感じた。
ゆっくり瞼を持ち上げれば、頬が紅く染まって息を乱した女が、先程と同じようにおでこを突いてきたのだと知る。
「…どうした。」
「また、みけん、しわ寄ってる。」
「……」
「…っ、いま、余裕、無い?」
「お前、確信犯だろ。」
今度は分かってるくせに、絶対に態と聞いてきた。
もっと奥に進めながら「無いって言ってるだろ」と自白すれば、視線を絡ませた先の瞳が悪戯に細まる。
やっぱり、こいつには勝てそうに無い。
心の中でそう感じつつ、その悔しさを隠すように腰の動きを激しくすると、断続的に高く細い声が鼓膜を揺らす。
細すぎてこれ以上欲をぶつけたら壊してしまいそうだと不安が過るが、でもまだ、やめてやれそうには無い。
「花緒。」
「…ん?」
自分の身体をもっと折って、女の背中に腕を回して抱き締めながら名前を呼ぶ。
「"余裕無い"から、もうちょっと無理させる。」
そう伝えると、目をぱちぱちと瞬いた女はどこか擽ったそうに微笑んで、それを受け入れるかのように自ら俺に辿々しく唇を寄せた。
◇◆
【補足資料1】
【テーマ】
sugar spot (甘くなる目印)の経過観察
【研究対象者】
梨木 花緒
有里 穂高
【研究結果】
▶︎見え隠れがあまりに激しい目印なので、
研究するのもやはりとても、骨が折れます。
ただ、
「自分にしか見せない一面」
を知りたいと相手に思うのは
甘くなる兆候でしょうか。
あとは。
"惚れた者負け"だと互いに思い、
互いに敗者宣言をしているバカとアホ、
結構愛しいなと思ったりします。
◇◆
##1.「天敵たちの敗者宣言」fin.
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