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「も…っ、いい、」
沈ませる指の本数を増やして刺激を与え続けていると、それを止めるよう訴える泣きそうな声が届く。
「俺は良くない。」
「変になるから、それやだ、」
「……なれば良いだろ。」
瞳の淵から溢れていく涙がこめかみ辺りを伝って流れ切る前に、唇でそれを舐めとると、擽ったそうな反応を見せながらも、また首を横に弱く振る。
「何で。俺しか見てない。」
「……、」
「花緒。」
名前を呼んで、きゅ、と固く結ばれた桜色の唇にまた飽きることなく自分の顔を近づけたら、何故か眉間の辺りを指でつんと突かれて、制された。
「……何。」
「じゃあ、もうちょっと、笑って、」
「は?」
「ずっと能面だから。眉間にしわも、寄ってるし。
たまには穂高が、思いきり笑うの、みたい。」
___私しか、見てないし。
途切れ途切れに、最後は俺の言葉まで引用して強請る言葉を咀嚼したら、また当たり前のように舌打ちが漏れる。
「…おい馬鹿。」
「ん、っ、なに、」
指の動きを再開させて、くい、と関節を折り曲げると声を漏らしつつ下から不満げに睨みを利かせられる。
「笑うとか無理。」
「なん、で?」
おでこをくっつけて、女の両腕が自分の首に回るように誘導しながら伝えたら、従順にそうしながらも尋ねられた。
「今、そんな余裕1ミリも無い。」
『…私と同じように緊張で焦ったりとか、
表情崩れてるとこも、たまには見たい。』
何故だか、こいつにだけ、
いつもどうしても上手く伝わらないらしい。
本音を仕方なく白状すると、
「…その難しい顔、
余裕がないって、ことだったの、?」
瞳を丸くして問われた言葉に、肯定の代わりに苦い表情のままに軽く唇に触れる。
「…ほんと、能面。わかりにくい。」
「お前が鈍いだけだろ。」
「そんな風に隠されたら、
私、ぜったい、勝てないじゃん。」
口付けを受け止める傍らで、不服そうに勝手に降参を告げてくる女は一体、俺と何の勝負をしているのだろう。
「別に、なんでも良いけど。」
「…良くないんだけど。」
「花緒。」
「…ん?、」
「もうそろそろ、入りたい。」
耳元で囁くと、目を見開いて頬をまた染めあげて、でも結局は「ずるい」と呟きながら、首に回した手に躊躇いがちに力を込めてくる。
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