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##2.「天敵たち曰くファン失格(?)の夜」
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「梨木、島谷さんが呼んでる。」
「え?……亜子さん!」
自分のデスクで作業をしていると、近くの席の先輩から声をかけられ、顔を上げて指を指された方向を見向くと、こちらを遠くから見つめて手を振る美女を発見した。
「お疲れ様です!どうしたんですか??」
「花緒。あんた、なんか忘れてることない?」
駆け寄って行くと、にっこりと満点の美しい笑顔でそう問いかけつつ小首を傾げ、艶やかなブラウンベージュの髪がはらりと肩から落ちるまでの一連の流れに見惚れてしまった。
「忘れてること?
…は!!!」
『お礼なんか良いわよ、スタバのフラペ5杯分くらいで。』
記憶を必死に手繰り寄せている間に、亜子さんにそう言われた時のことを思い出した。
あのカタログ事件の時、亜子さんと古淵さんには本当に凄く、お世話になった。
お礼をきちんと出来ていなかったと今更最低な自分を思い出して顔が青白くなっていく。
「す、すみません亜子さん…恩知らずの女で…」
「え、そんな反省する?まあ良いけど。
ということで今日の夜、暇?」
「空いてます!!今日は私が奢らせていただきます!
古淵さんにもお伝えしておきますね。
お店はどこか好きなところがあれば……いだだだ、」
近くの良い感じのお店を探そうと、話を続けながらスマホのグルメアプリを開いたところで、左頬に鋭めの痛みが走る。
「なんで古淵が出てくんのよ。」
美女が、私の頬を抓りながらとても不機嫌になっている。でも眉間に皺を寄せても、美人で羨ましい。
「え?だって古淵さんにもお世話になりましたし。」
「ねえ待って、協力の度合い、
私とアイツで同じなわけ?
すんごい納得できないんだけど。」
「……ええ…」
確かに、古淵さんは配達の送り状の転写ができず亜子さんにめちゃくちゃに怒られていたけど。
「ぜっったい何にも気付いてない、
ただのポンコツ野郎なのに?」
酷い言われようだ。
いつもぺっかぺかの笑顔の彼に
勝手に同情してしまう。
「でも夜中まで付き合わせてしまったのは古淵さんもですし…」
「は?」
そろそろ手を離してくれないだろうか。
眉間の皺を更に深めた彼女は、そのまま数秒間考えを巡らせて「あーそっちね。」と合点がいったらしい。
「花緒。カタログの話じゃないわよ。」
「…え?」
じゃあそれ以外で、私は何を失念しているだろう。
疑問符を頭にぽんぽん浮かべて間抜けな顔をしていると、また薄い唇に弧を描いた彼女は
「…"有里 穂高君とのこと"
私にまだ、報告が無いんだけど?」
と、爆弾をあっさりと投下してきた。
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