##2.「天敵たち曰くファン失格(?)の夜」

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◻︎ 「ふうん。」 「……、」 とても、気まずい空気が流れている。 オフィス内の非常階段の踊り場で、壁に背を預けて腕組みしている男は、いつもの能面でいつも通りの平静な声だけど、"不服そうな感じ"は、流石に伝わる。 「す、すいません。」 「別に良いけど。 お前は今朝メッセージしてきたこともそんな直ぐ忘れんの?」 「…わ、忘れてたわけじゃないけど。 亜子さんに誘ってもらって、お礼してないことも思い出したら、行かないと!!と思って…」 どんどん尻すぼみしていく言葉を聞いていた男が溜息を漏らすから、余計に身を縮めた。 ______ 今朝も勿論、通勤は満員電車の中に身を置くしかなく。 圧迫感を密集させたみたいな空間に耐えつつ、「いやでも今日は金曜日だから。頑張れ。」と、自分にエールを送った瞬間だった。 金曜日か、今日Mステだな。 と何の気無しに、順序よく思考が至った時、同時にすごく嫌な予感がして背中にたらりと汗が伝った。 慌ててスマホをジャケットからその狭い空間で必死に取り出して、【Mステ 出演者】で検索をかけて 「(や、やっぱり…!!)」 そのサーチ結果に卒倒しそうになった。 また慌ててトーク画面を開いて 《今日のMステ、忘れてた!!!》 《は?》 メッセージを打ち込んだ途端、既読の文字と共に、恐らく同じように通勤中だと思われる男から、短い腹の立つ返事が直ぐに届いた。 《めちゃくちゃ久しぶりにしゆつえんするのに! あんた、ろくごしてら!?》 《お前誤字やばいけど》 慌てすぎてうまく打ち込めないけど、なんとなく状況は分かるだろ!と心の中でツッコミを入れる。 大好きなバンドが、生放送の番組で演奏するのが告知された丁度1週間前はあんなに喜んだのに。 また今週を乗り切ることに必死になって、すっかり録画することさえも忘れていた。 一生の不覚だ。 リアタイ出来ないことは100歩譲って仕方ないにしても、観られないのは耐えられない。 《録画も忘れた。あんたしてる?》 縋るような気持ちでもう一度打ち込んだら、特にためることもなく 《してる》 とサラリと返ってきて、よくやったという気持ちと、じゃあなんで昨日促してくれないのかという苛立ちが一緒にやってきた。 《観せてください》 《別に良いけど。じゃあ今日来れば。》 そうメッセージが届いて、手が分かりやすく止まった。 初めて能面の家に行ってから、丁度2週間が経つ。 先週は私もこの男も出張があったりして、週末も会わなかったから、家に行くのはもし今日を含めるなら2回目だ。 …なんか、大好きなバンドを理由に、家に行く口実を仕向けたみたいになってしまっただろうか。 そこまでは全然考えてなかったけど、はしたないとか思われたらどうしよう。 あの日のことは、忘れたいとかじゃ勿論なくて、でも思い出したら未だに顔から火が出そうになるので、あまり振り返ることが出来ていない。 この朝に似つかわしくない顔の火照りを気休めに手で仰いで逃がそうとしてみても、全く効果は無かった。 《行っていいの?》 《良いけど》 またなんとも愛想の無い返事だと文句を言いたい気持ちと、「この男は別に、会いたくないのかな」と確かめたい気持ちまで出てきてしまう。 恋愛はどうしてこうも、いつも面倒で厄介な不安と隣り合わせなんだろう。 奈憂にメッセージすべきだったかなと後悔まで襲ってきて、慌てて全てを引っ込めて乗り換え駅を降りた。 ______
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