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「あんた、有里君のこといつから好きだったの?」
「え。…研修の時、からです。」
美麗な微笑みに乗せられて、正直に答えてしまった私は確かに馬鹿かもしれない。
「ずっと好きで、
折角やっと付き合えたのに何をやってんの。」
やれやれと困ったように笑ってこちらに問いかけてくる彼女に、1つの疑問がそこで生まれる。
「……あの、亜子さん。」
「なに?」
「気になってたんですけど。」
「?」
「…なんで私が、あの能面のことす、好きだったとか、付き合ってるとか、知ってるんですか?」
行儀良くちゃんと彼女の方を向いて尋ねたら、決して派手な印象は無いのに長く濃い睫毛が、ぱちぱちと瞬きの度に軽やかに踊る。
「……さ。何食べる?」
「ちひろさん、何かオススメありますか?」
確実に私の質問は聞こえていたはずなのに、そんな風にスルーを決め込んでメニューを見始める亜子さんと、乗っかる奈憂の違和感しかない様子を見守って数秒後。
「ちょっと待って!!!」
もしかして、この人たち。
「奈憂。亜子さんと繋がってたね…!?」
「ナンノコト?」
隣の女に詰め寄ったら、分かりやすく片言の日本語で返されてそれが肯定を物語っている。
やられた…!!
そこに気付いたら、一気にぶわっと記憶が蘇る。
『…あれは、常に私の天敵なの。』
『一晩一緒に過ごしたのに?』
『っ、!?』
『夜通し一緒に仕事したんでしょ?』
『…何で知ってるの……』
『企業秘密。』
そうだ。あのカタログ事件の時だって、別オフィスで働く奈憂が何故だかそのことを知っていた。
「何が企業秘密だ…!」
「言っとくけど、花緒の気持ちとかまで全部、逐一報告受けてたわけじゃないから。
あんたの気持ちは元々バレバレだったし。
付き合ったのも、私があんたと有里君から勝手に察して、奈憂に確かめただけ。」
「亜子さんは本当鋭いですよねえ。」
「探偵に転職するか。」
バレたらバレたで、開き直り始めた2人に絶句していると、ちひろさんが「亜子、後輩を揶揄うのやめなよ」と宥めつつ運ばれてきたビールを差し出していた。
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