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「ま、冗談はここまでにして。俺の名前は須藤聡。〇x商事で働いてる。27歳だ」
「えっと、山里李央です。△△商事で働いています。24歳です」
「ありゃ、年下だったんだ?」
山里の気遣いと優しさと強さに勝手に年上だと思っていた。
まぁ、年上だとか年下だとか関係ないよな。
山里は山里だ。
「うん、ま、別にいっか」
と、一人納得する。
「俺さ、別に失恋したとか悲しい事があったとか、まーったくそういう事じゃないんだぜ?」
これは強がりだった。
そして見栄でもあった。
泣く姿を毎日のように見られておきながら今更取り繕ったりしても意味はないかもしれない。
だけど、自分がダメな人間だという事を山里に知られたくなかったのだ。
すらすらと出てくる嘘八百。
目にゴミがーなんて、それが毎日ひと月もの間続くだなんて、誰が聞いてもおかしいと思うはずだ。
だけど山里は俺の言葉を信じて少しも疑っていないようで、「メガネは?」なんて言い出す。
この男の純粋さに何度もぱちぱちと瞬く。
そして山里はあの大好きな笑顔で笑った。
嘘をついて申し訳ないと思うのに、山里の笑顔につられて俺も笑いだした。
*****
「俺さ、お前が俺の事みてるの気づいてた。最初は何見てんだ!って思ったけど、俺の事見るお前の目が優しくてさ……話がしてみたいって思ったんだ」
「…………」
「お前は…俺と実際話してみて……どう思った?」
訊くのが怖い。だけど、訊かずにはいられないんだ。お前の気持ちが知りたい。
「俺は―――」
「――うん」
「俺は、あなたが悲しんでいなくてよかったと思いました」
「そか」
こいつは…やっぱり優しい。俺は嘘をついているというのに。
自分自身が嫌っていた嘘をつくという事。
それなのに嘘をつく事で自分を守っている。
ズキズキと心が痛い。
「―――好き…です」
「そか」
それだけ答えるのがやっとだった。
罪悪感と俺の中の好きが溢れて胸が苦しい。
俺も―――――。
そう応えてしまいたかった。
だけど俺はダメな人間だ。
そんな俺がこのままお前に気持ちを伝える事なんてできやしない。
俺自身がそんな事は許せない。
だから自分を変える大きな一歩として、まずはあの日の事を謝らないと……。
「あのさ、俺――――」
謝って、だけど今はまだ自分のダメなところを知られるのが怖い。
いつかかならず自分の気持ち伝えるから。
だからそれまで待っていてくれないか。
今よりダメじゃなくなって自分に自信がもてたなら、
きっと好きだと伝えるから。
俺の気持ちを知ってか知らずか山里はただ穏やかに笑っていた。
-終-
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