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彼を見つけて一ヶ月程が過ぎていた。
今日も彼はあの場所で泣いているのだろうか?
今日は予定外に遅くなってしまい、俺は走って公園へと急いだ。
ようやく公園につき、彼を探すがもう彼の姿はなかった。
そうだよな…。いつもより二時間も遅いんだから……もういるはずがない。
はぁ…と吐いた息が冷気で白く色づく。
「あのさ、寒いんだけど」
「―――へ?」
振り返ると彼がカタカタと震えながら俺の事を睨んでいた。
想像していたのとは違う少しハスキーな甘い声。
「なん…………で…」
「だから寒いんだって。二時間とか遅刻が過ぎるだろ?俺を凍死させる気かっ」
そう悪態をつく彼の声は震えていて、何がなんだか分からないけれど俺は待たれていたらしい?
「あっと…すみません…?」
俺は急いで自分が巻いていたマフラーを彼の首に巻き付ける。
「ふわーあったけー…」
彼は途端にご機嫌になって嬉しそうにふにゃふにゃと笑った。
「―――えっと…?」
俺は毎晩彼を見ていた。
だけど、彼と目が合う事はなかったのに、俺の事を待っていた…?
一体どうして―――?
「お前、毎日毎日飽きもせず人の泣き顔見に来てたろ?」
「あ、はい。すみません……」
バレていたのか…。
途端に居心地が悪くなり謝ったきり次の言葉が出てこない。
「何で?」
「え?何で…?」
言っている意味が分からずきょとんとして彼の顔を見る。
「そんなに大の男が泣いてるのが珍しかった?」
「あ、いや、そういうんじゃなくて――」
「じゃなくて?じゃあどういうのさ」
「――――綺麗…だった、から……」
ぽろりと言葉が零れた。
言うつもりはなかったのに、彼に問われつい口をついて出てしまった。
「――――へ?」
今度は彼の方がぽかんとした顔をして、みるみるうちに真っ赤に顔を染め上げていく。
そして再び訪れる沈黙。
「くしゅんっ!」
彼の突然のくしゃみにびくっと肩が震えた。
自分の邪な想いがバレてしまったのかと思った。
「あーっと、風邪ひいちゃいますねっ!ど…しよ……」
「―――お前の家って…こっから近いの?」
「あ……えと…10分くらい…です」
「じゃあ、行こ」
「え……」
「もうっ何してるのさっ。風邪ひいたらお前のせいだぞ。早く連れてけよっ」
あっと思ったら彼は俺の腕をひっぱりずんずんと歩き出した。
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