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「ま、冗談はここまでにして」
じょ、冗談だったのか。分かりにくい。
「俺の名前は須藤聡。〇x商事で働いてる。27歳だ」
お前は?と目で問われ、俺も慌てて答える。
「えっと、山里李央です。△△商事で働いてます。24歳です」
「ありゃ、年下だったんだ?うん、ま、別にいっか」
彼、須藤は一人で何か納得したのか俺を見てにやりと笑った。
「俺さ、別に失恋したとか悲しい事があったとか、まーったくそういう事じゃないんだぜ?」
「それなら…どうして?」
「コレ」
と須藤は自分の瞳を指さして見せる。キラリと光る物が見えた。
「あ、コンタクト――?」
「そそ、あの辺風が強くてさ、いっつもあの辺で目にゴミが入っちゃって――それで涙出ちゃってた。だからベンチに座って泣いてゴミ洗い流してたってわけ」
「あー」
それしか返事ができなかった。
だけど、同時に須藤が辛い想いをしていたんじゃなくてよかったと思った。
俺は安心してふふふと笑った。
「笑うなよー。俺には切実な問題なんだから」
「すみません。えっと、メガネは…?持ってないんですか?」
俺の言葉に須藤は何度もぱちぱちと瞬いた。
「…………」
「須藤さん?」
「あーねぇ、メガネね。うん、そうメガネ…」
誤魔化すように視線が泳ぎ口笛まで吹き出しそうな勢いだ。
今の今までメガネをかけるという選択肢は彼の中になかったのだろう。
「ふっ…あはははははっ」
緊張も解けなんだかおかしくて、今度は俺が声をあげて笑った。
須藤はバツの悪そうな顔をしたが、すぐに笑いだした。
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