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連れ立って歩きながら俺は何をしゃべるでもなくただふわふわとした気持ちで歩き続けた。
俺が再びくしゃみをすると少しだけ速くなった足取りに彼の優しさを感じ嬉しくなった。
この男の優しさはじんわりと心地いい。
*****
アパートに着き部屋に入ると、無造作に置かれた小物の一つ一つが男の温かさを表わしているようで、俺は完全に浮かれていた。
男はそんな俺に戸惑いつつもふわふわのブランケットを手渡してくれる。
「えっと、今暖房付けたんですぐに部屋も暖かくなると思いますので、それまではこれ温かいので身体に巻いておいてください」
自分はコートすらまだ脱いでいないのに、どこまでも人の事を気遣う男。
こういうのが本当の気遣い?優しさ?なのか。
じゃあ俺の気遣いはただの気遣ったつもりだった?
「ありがとう。ふわーあったけー。人の事ばかりじゃなくてお前も暖かくしろよ」
「あ、はい。コーヒー淹れてきますんでそこに座って少し待っていてくださいね」
男の優しさに少し涙が滲む。
俺は涙を誤魔化すように再び部屋をきょろきょろと見回した。
男が淹れてくれたコーヒーを少し冷ましこくこくと飲む。
男が俺の事をじっと見つめている。
男がひと月の間見続けていた俺ではない本当の俺。
こんな傍若無人な俺の事、男は幻滅しただろうか?
不安な気持ちなのにまた俺の口から出るのは可愛くないセリフ。
「なに?また人の事観察?」
「え、あ、いえ…!――すみません…」
しょぼんとしょぼくれる様が叱られた大型犬のようで、なんだかおかしくなる。
「ふ……ふふ…あはははは!」
笑いすぎてか自分の情けなさからか目じりに涙が滲む。
男は突然手を伸ばしてきて俺の涙を拭った。
突然の事に驚き固まる。
「ひゃっ!び、びっくりした。あんたっておもしろいな。色々と予想外だわ」
再び笑い出す俺。
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