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第26回 武家と公家、相容れず……保科弥三郎登場で、あらためて諏訪神党について調べてみる
『逃げ上手の若君』第26話は新展開、なんかムカつく「麻呂(まろ)」が出てきましたね。
先日、楠木正成の息子である正行を主人公とした『桜嵐記』という宝塚のお芝居を観ました。その中で、父・正成を討ったのは足利尊氏だとしながらも、公家たちの武家に対する無理解ゆえに父は亡くなったのではないかと、楠木三兄弟が苦悩するシーンがありました。
古典『太平記』で、戦いのことは戦いのプロである武士、ここでは楠木正成の言に従うべきであると後醍醐天皇が述べながらも、天皇の権威の失墜をおそれて公家たちがその言を覆してしまい、正成は最後の戦いに赴くことになります。
二毛作の裏作麦についても、『日本中世史辞典』にはこのようにありました。
文永元年(一二六四)の鎌倉幕府追加法四二〇条に、「諸国百姓、田稲を苅り取るの後、其の後に麦を蒔き、田麦と称す」とあるのが初見。それによると、二毛作の進展に伴い、裏作の田麦に領主が税を課税するという事態が進行していたようで、、それに対し、鎌倉幕府は「租税の法、豈に然るべけんや」として領主の行為を否定して、田麦は「農民の依怙(自由)」にすべきであると備前・備後両国の御家人に命じている。
小笠原貞宗が「表作の米のみ年貢を取る…というのが一応の取り決めでございますが」と控えめに言うのに対して、麻呂(清原信濃守)が「それは逆賊・鎌倉幕府の取り決めであろ」と返したやり取りが、これに相当します(鎌倉幕府=北条氏ですから、時行が民思いなのもわかる気がしますね)。
「麻呂(まろ)」は極端な例なのかもしれませんが、武家と公家の相容れない思考・行動原理は、南北朝時代を理解する上では見過ごせない問題だと思っています。それでは、神官・諏訪氏はどうなのでしょうか。
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「悪徳国司」(清原信濃守)に対し、死を覚悟して戦いを挑む保科弥三郎とその家臣たちががものすごい形相で登場しました。
「保科氏」とは、どのような一族なのでしょうか。
信濃の豪族。平安末期諏訪氏の一族が高井郡保科(現,長野市若穂町)によったことにはじまる。1181年(養和1)の横田河原の合戦に木曾義仲軍井上光盛の手勢として保科党がみえる。また保科太郎は源頼朝の家人となった。一族は15世紀はじめに伊那高遠へ移った。その後裔正則は高遠城により,正俊,正直の2代は武田氏に属し勇名をはせた。正直は武田氏滅亡後徳川氏に仕え,1590年(天正18)徳川氏の関東移封にともない下総多胡1万石の領主となった。〔世界大百科事典 第2版〕
諏訪氏の庶流で、徳川家に仕えて大名となって生き延びたのだというのならばすごいですね……(諏訪氏の庶流であったかは不明のようです)。諏訪神党にもいろいろな一族がいるのだとあらためて知りました。
※庶流…本家から別れた家柄。分家。別家。⇔嫡流
この保科弥三郎ですが、時行が挙兵した際には重要な役目を果たすようです。でも、ここでそれを明かしてしまっては作品の展開上おもしろくないので、伏せておこうと思います。
殺気立つ保科に対して時行がどう関わっていくのかが楽しみです。
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さて、先にこのシリーズの第4回で「諏訪神党」について触れましたが、その後、当時のことを地方史などから学ぶことで、だんだんと知識が増えてきました。
諏訪上社に社檀を構えて「神氏」を称したのが、上社大祝であり、『逃げ上手の若君』の諏訪頼重の系統のことです。
鎌倉後期になると、信濃御家人のなかに諏訪上社の姓である「神」を名乗る一族が見られるようになります。例えば、滋野一族である海野・祢津・望月氏(第11話で「諏訪神党三大将」でお目見えしていますね!)などが「神」を名乗っているそうです。
しかも、〝神党を名乗るのに資格や条件はあるのですか〟と地元の研究者の方に伺ったところ、それはないということでした。
第4話で、頼重が雨の中を神党の武士たちに待機させていましたが、帰り際に頼重に対する文句や悪口を言いながら彼らは帰っていきます。だまされたという思いの強い時行は頼重にかみつきますが、頼重はひときわインチキ顔で応じます。
「ん~? 彼等だってそういつも熱狂的じゃありませんよ」「日本の宗教は基本昔からユルいんです」
諏訪氏の強みは、公家でもない武家でもない、神官ですからどっちつかずでいかせてもらいます、皆さんもそれでいけばどうですか、え、できないの?…という、周囲がちょっとイラっとするスタンスなのかもしれませんね。
……でもですよ、8月4日に発売された『逃げ上手の若君』2巻によれば、諏訪頼重の能力ポイントは「忠義」が「93」です。インチキ神力で「魅力(96の最高ポイント(笑))」をふりまくだけというキャラ設定ではないのです。ーー松井先生がこれから描く諏訪氏や頼重の謎からますます目が離せません!
〔阿部猛・佐藤和彦編集『日本中世史事典』(朝倉書店)、諏訪市史編纂委員会『諏訪市史 上巻』を参照しています。〕
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