第28回 「最も潔く死んだ一族」に秘められた冷酷な血と法への絶対服従……!?

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第28回 「最も潔く死んだ一族」に秘められた冷酷な血と法への絶対服従……!?

 「最初の門番さん」が第26話から連続三度目の登場!  戦死してなくてよかった…と私は嬉しく思ったのですが、口の周りが血だらけです。握り飯をすすめられるも放つ一言。  「あ 私はいいです 戦場で生肉をお腹いっぱい食べたので」  「あいつは強えってより怖えーよ!」  私や時行だけでなく、時行の郎党たちも何気に彼から目が離せないのですね、きっと。 ***********************************  8月25日のNHKBSプレミアム『英雄の選択「“若君”北条時行の終わりなき戦い』はご覧になりましたか。  松井優征先生も登場されていましたね!  実は私、地元の歴史講座で番組にも出演されていた先生のお話を伺う機会がありました。それによると、当時の北条氏は強くて、鎌倉幕府が滅びるなど誰も思っていなかったのだというのです(従来言われてきた元寇だとか財政難だとかいう幕府滅亡の原因も、今では否定されているということです)。  また、番組の中で北条氏が好きだというパネラーの一人は「常に権力のそばにいて権力を握るべくそれでいつも血刀振るってる感じでそれはまあ恐ろしい一族でちょっとやっぱりこの冷酷な魅力にやられるというところでありますね」「秘密の部屋に入ってですね会議してですね次誰を蹴落とすかって考えているような感じがする」と、その魅力を語っていました。  私の友人も、北条氏には「簒奪者」のイメージがあるということを言っていました。やはりまた別の友人が、北条政権は粛清で統率されたかつてのソビエト共産党みたいだと言った一言も印象に残っています。  北条氏の強さは、全国の所領や軍事力はもちろんなのかもしれませんが、実は〝強さ〟というよりも〝怖さ〟が真相なのかなと思うこともあります。恐怖は人を委縮させて、人々は自分たちの内面から自分たち自身を統制することになります(「強えってより怖えーよ!」の実態は、「門番さん」のかもし出す近寄りがたさと同じ!?)。  かくいう私も、北条氏は日本史を勉強し始めた最初から好きだったのですが、ストイックな感じにしびれました。でも、ストイックな人というのは、他者を寄せ付けない厳しさと、時にはそれを他者にも求め、秩序を乱す人たちには容赦しない傾向があります。そこで、その線引きがあまりにも恣意的にならないようにために制定するのが、ルールや掟、すなわち「法」です。金沢文庫を設立して和漢の書物を集めて知を極めようという北条氏の姿勢には、「法」の探求と重視という意識を感じます。  また、『太平記』の中には初代執権の時政が江の島の弁財天様よりお告げを受けるエピソードがあります。  美しい巫女となって時政の前に現れた弁財天は、時政の前世が箱根神社の僧であり、その功徳によって子孫は栄華を極めること、しかしそれは天道に背けば七代以上は続かないことを告げ、大蛇となって海中に去ります(その時に残された三つの鱗が家紋の由来とされています)。  時行の父である高時は九代目。すでに予言の時は過ぎ、さらに高時は田楽や闘犬に夢中になり、後醍醐天皇を隠岐に配流した態度は、「天道」に反するものです。  「天道」とは、「超自然の宇宙の道理」を意味します。  ある見方からすれば、北条氏は、世界をつかさどる大いなる「法」に従ったがゆえに潔く歴史の舞台から姿を消したのかもしれません。それが、法のもとに秩序を保ち、冷酷な行いも辞さなかった自覚を持つ一族の、ケジメのつけかたなのだとしたら悲しいですが……。 ***********************************    私の北条好きは、諏訪の血によるものかもしれませんね(今思うと、普通は小学生の女児が北条氏を好きにならない気がします…)。  たとえ本性がどんなに冷酷であったとしても(私はそうは信じていませんが)、諏訪氏にとっては一族を身内人(みうちびと)として引き立ててくれた北条氏への恩義(諏訪氏は「法」による公正さを目指す点で北条氏と気が合い、多くの人にとっては厳し過ぎると思う「法」での統制にも耐えうる一族だったのかもしれません……)と、一方で、しぶとく時代を生き抜いてきた諏訪氏の生き様(これは今後触れたいと思っています)を、頼重らは子どもだった時行に諏訪での生活の中で示したと想像するのです。  このシリーズの第3回で私は、「時行は、北条の血と諏訪の行動倫理を受け継いだ、まさに乱世を生きるサラブレッド」と述べました。  『英雄の選択「“若君”北条時行の終わりなき戦い」』では時行の血統が強調されていましたが、決して表には取り上げられることはなくとも、時行を最後まで支えようとした諏訪一族の意志をまた、私は感じるのです。   〔日本古典文学全集『太平記』(小学館)、ビギナーズ・クラシックス日本の古典『太平記』(角川ソフィア文庫)を参照しています。〕
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