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第35回 言葉の勝負にも負けない時行はおそらく高IQ?…しかしながら、人間噓発見器のオッサンどもには負けてしまうのか!?
『逃げ上手の若君』で小笠原貞宗と市河助房が登場すると、我が父祖・諏訪氏の仇であったことも忘れて、どんな面白いことをしてくれるのかなと期待してしまう自分がいます。
第35話では、視力と聴力に異常な能力を発揮するオッサン二人が時行に過激に接近し(かつて第7話で頼重も貞宗に「ヌチュ」っとやられてますね。「戦」モードの彼らにソーシャルディスタンスという概念はありません……)、これまで冷静に対応していた時行も「ちょ…礼儀は!?」とタジタジです。
「オッサン二人で面白合体」(第14話の玄蕃のセリフ)した、恐るべき嘘発見器の登場です。
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しかしながら、「礼」をもっての言葉による貞宗との勝負については、時行も決して負けてはいませんでした。
このシリーズの第19回では、当時の子どもにどれだけの能力があったかについて記しています。
https://estar.jp/novels/25773681/viewer?page=19
頭脳について、この時は詳しく触れませんでしたが、『徒然草』の最後の段落では、筆者である吉田兼好が八歳の時に、理詰めの問いで父親が返答できなくなったエピソードが記されて、筆がおかれています。
兼好「仏とはどんなものなんでしょうか」
父親「仏とは人間がなったものだ」
兼好「では、人間はどのようにして仏になるのでしょうか」
父親「仏の教えによってなるのだよ」
兼好「人間を教えた仏は、何が教えて仏になったんですか」
父親「その仏は、先輩の仏の教えによって、仏になったのだ」
兼好「それでは、仏になる教えを始めた一番最初の仏は、どんな仏なんでしょうか」
父親「空から降ってきたか、それとも地面からわいて出たか」
物語の時行は九歳。兼好のようであってもおかしくないと推測されます。
そして、なんといっても時行は北条の嫡流です。このシリーズの第28回で、北条氏は法を重視した一族だということをお話しましたが、「法」とはまさに「言葉」によって諸現象を分析・分類して、社会や世界に一定の秩序もたらすものです。
https://estar.jp/novels/25773681/viewer?page=29
そして、諏訪氏もまた、法や言葉に強い一族であると思います。北条氏の御内人として、つまりブレイン役として、幕府の中枢で働いていました。
また、頼重の未来予知能力は特殊能力だとしても、諏訪一族の一般的な能力として〝先読み(未来を予測する力)〟が考えられるということは、このシリーズで検討してきました。
https://estar.jp/novels/25773681/viewer?page=9
だとすれば、時行はもともとの言語能力も高く、さらに、諏訪頼重のスパルタ教育(第4話・第34話参照)で論理的な推論の能力の延長とも言える〝先読み(未来を予測する力)〟や今回の赤沢の発言に対してとった〝裏読み(真相を見抜く力)〟も鍛えられたとすれば、高IQであったことは想像に難くありませんね(笑)。
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貞宗と市河は、「礼」から「戦」へと「都合の良い切り替え」をしてきました。たじろぐ時行ですが、亜也子はどうやらすでに「戦」脳へ切り替えをしているようです。
おそらく亜也子は、時行が秀でている言語能力といった点では、第34話で「亜也子の武力は頼りになるけどその…(コマの背景に、頭にお花が咲いて「筋肉~」と言っている亜也子)」と時行が心配したとおりなのかもしれません。しかし、頼重は「心配ご無用 ああ見えて機転も効くのですよ」とクスッと笑います。
かつて、格闘技の指導者に聞いた話なのですが、本当に強い選手はパワーだけでないということでした。頭脳も使えないと、パワーでどんなに押しても〝コイツ、パワーしかない〟とすぐに相手に見破られて負けてしまうのだとか……。
「戦」モードに入ったオッサンたちに対抗するには、こちらも「礼」を崩してのぞめばいいことが亜也子にはわかっていると見ました。
最後のコマ、亜也子の踊りと音楽を楽しむ小笠原の武士たちの表情が、時行と亜也子が赤沢に連れられて最初に敵陣に乗り込んで来た時とまったく違っているのに気づきます。
ーーさあ、亜也子の「戦」モードのお手並み拝見です!
〔ビギナーズ・クラシックス日本の古典『徒然草』(角川ソフィア文庫)を参照しています。〕
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