第72回 諏訪も鎌倉も…真剣なのに皆さんツッコミどころ満載!? そして、ネタバレしない程度に足利直義と関東庇番の予習・復習もしてみる

1/1
前へ
/177ページ
次へ

第72回 諏訪も鎌倉も…真剣なのに皆さんツッコミどころ満載!? そして、ネタバレしない程度に足利直義と関東庇番の予習・復習もしてみる

 前々回、コマというコマを何度も見返して探した諏訪時継が、いきなり最初のコマから登場! 人知れず〝よかった、時継いた!〟と安堵しつつ、何となく違和感が……よく見たら頭上に「透けてる!!」という編集部のコメント発見!! 思わず苦笑して始まった『逃げ上手の若君』第72話でした。  もしかしたら、時行が瘴奸と戦っていた時も傍に控えていた(けれども、誰も気づかなかった(涙))という時継が、貞宗と時行をしっかりと追って、時行の無事を確認した上で戻って来たのかも、などと想像しました。  そして、太刀で鼻をほじる三浦八郎を必死で止める弧次郎と亜也子……時行もげんなりです。前々回の時行の名乗りの時の、八郎の〝終わった〟という顔を思い出して、やっぱりまた笑ってしまいました。  さらに、どれだけ諏訪の軍に「全裸逃亡ド変態稚児」(第38話初出)の噂が広まっていたかに驚かされます(笑)。しかし裏を返せば、「長寿丸」が二年の間にどれだけ諏訪に溶け込んで生活をしたかという証です。誰も北条の子だなんて疑うこともしなかったということなのだと思います。これも、頼重の情報統制のひとつだったとしたらすごいですね。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  「御射山祭を手伝う役目で諏訪頼重と話した事がある」「間違いなく奴は切れ者 優秀な頭脳を神の仮面で隠している」  場面が変わっての鎌倉での足利直義ですが、頼重の本質的なところをすでに見抜いていたのか!と、空恐ろしさを覚えました。  先に私もこのシリーズで、諏訪頼重は〝頭脳派神官〟であるとして、諏訪氏の能力等をいろいろ推測したりもしてきました。 第9回 正統派武士・小笠原貞宗VS頭脳派神官・諏訪頼重、時行の成長を促す https://estar.jp/novels/25773681/viewer?page=9  ゆえに、「神」が「仮面」だというのは、〝やっぱりそうだったんだ〟と思いながらも、史実と重ねてみても、どうにも奇妙な一族だなと思わずにはいられません(ただおそらく、このあたりが、作品の中でも諏訪氏が北条氏に強く感じている「恩義」と結びつく謎として、いずれ描かれると期待を寄せています)。  一方で、そんな足利直義は計算が行き過ぎて、「庇番衆牛車旅」が痛烈なギャグになっているのが、ツボに入りまくりでした。残された記録などから、一般的にも「堅物」の印象が強い直義に対する、松井先生の〝直義イジリ〟が絶妙としか言いようがありません。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  また、久々登場の「関東庇番」にも触れないわけにはいきませんね。初登場の際にも記事を書いておりますので、こちらがまだという方はぜひご覧ください。 第33回 関東庇番について調べてみた。そして、北条時行VS足利直義の鎌倉愛対決へ…? https://estar.jp/novels/25773681/viewer?page=34  「庇番衆牛車旅」(きらびやかなライトとキメッキメのポージングは、歌舞伎町界隈の特定のお店をイメージ!?)のコンテンツのひとつに、「道中足利家の武勇伝を聞けたり!!」とありますが、実のところ、『逃げ上手の若君』に現在登場して名前の出ている庇番衆は、一人を除いて皆「足利一門」です。  ※一門…一家族または同家系の一族。宗族(そうぞく/同一祖先の父系血縁の子孫として、共同して活動する地域的な集団)。  谷口雄太氏の『〈武家の王〉足利氏 戦国大名と足利的秩序』によれば、足利氏と姻戚関係(尊氏・直義兄弟の母が上杉氏出身)にある上杉だけが仲間はずれで、斯波、岩松、渋川、今川、そして今回諏訪から偵察で戻って来た吉良、すべて足利一門なのだそうです。  他にも、現代でも聞けばその名字は知っているというような、細川だとか畠山だとかも一門だということです。しかも、一門でのランク付けも厳しかったそうです。ーー「神」の姓を使えば誰でも諏訪神党だった諏訪氏とはまた別の、かなり強烈な集団ですね。  室町時代には、足利一門か否かでもはや、身分に大きな隔たりが生じていたというのですから、松井先生のこの「庇番衆牛車旅」の価格も、「富裕層の女子」が抱くであろうステイタス感も、足利氏の持つ〝セレブ〟な雰囲気を見事にとらえていると思いました。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  直義や庇番がただのギャグで終わるわけがなく、「燎原の火が広がる前に消し潰せ」と渋川と岩松に命じる直義の顔が怖いですね。怖いのは顔だけでなく、親指と人差し指を合わせて何かをつまむかのようなジェスチャーもです。  ※燎原(りょうげん)の火…勢いが激しく、防ぎと止めることができないもののたとえ。「燎原」は、野原を焼くこと。草原に燃え広がる野火(=早春に野山の枯草を焼く火)の意から。  時行軍と渋川・岩松との戦い、そして鎌倉の行方について、歴史的事実を知る私ですが、ネタバレはもちろんいたしません。もっとも、ネタバレしたところで、天才・松井先生のことですから、それを読者が知っていようといまいと関係ないと思われます。ただ、この戦いが極めて〝壮絶〟で、多くの人々の運命を変えてしまったというのだけは一言書いておこうかと思います。 〔谷口雄太『〈武家の王〉足利氏 戦国大名と足利的秩序』を参照しています。〕
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加