迎えに来たのは

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迎えに来たのは

眉間に皺を寄せ訝し気に少年を見た。 「―――あなたは?」 「あ、あの俺、清水杏(しみずきょう)って言います」 「――で、その清水杏くんが私に何の御用ですか?」 「あ、やっぱりあなたがさかきくんなんですね?迎えに来ました!」 迎えに…? この少年が俺を――? 冗談や揶揄いの類なら取り繕う必要もない。俺から表情は抜け落ち、真顔のままで少年に言い放つ。 「冗談なら他所でやってくれないか」 「ち、違います!母親の名前は(さかえ)です。覚えていませんか?」 その名前を聞いた途端、全身から血の気が引いた気がした。 さかえ――確か…そんな名前だった―――。 曖昧になってしまった記憶ではあるが、母の名前は確かに『栄』だ。俺の榊という名前は母の『さかえ』という名の音から来ていると言っていたのを覚えている。 だが、そうだとして―――。 ズキリと頭が痛む。 ふらつく俺を慌てて支えようとする杏。 「――それで…?その話が本当だったとして、それがなんだと言うんだ?」 「兄さん……。母さんが一ヶ月前に――亡くなりました」 ―――亡くなった…? 「末期の癌でした…。それで母が残した手紙に兄さんの事が書かれてあって、僕は母が亡くなって初めて兄さんの存在を知りました。すぐにでも迎えに来たかったんですが、僕も混乱していたし手紙が出てきたのも最近の事で、諸々手続きをしていたら遅くなりました…ごめんなさい」 杏は何かごちゃごちゃと言っていたがまったく頭に入ってこなかった。 ―――――一ヶ月も前に? 母は俺の事を捨てたのに、こいつ…杏の事は捨てずに―――? それよりなにより、俺の居場所を知っていたのに迎えにも来なかった? 実の母が亡くなったと聞いても悲しいとういう感情は沸かなかった。 悲しいというより母親にとって自分は何だったんだろう?という想いの方が強かった。 ――しかし、杏は俺を迎えに来たと言った。 「兄さん、一緒に暮らしましょう?」 そうにっこりと笑って手を差し出す杏。 俺は思わずその手を掴んでしまった。 俺は30年間本当は迎えを待っていたのだろうか? 口では親は三山の両親しかいないと言いながら、母を――待っていた? 実際には母ではなく弟が迎えに来たわけだが。 これで本当に『おもちゃ売り場のさかきくん』は嬉しいのだろうか? 杏に連れられて行きながら、ふと他人事のようにそんな事を考えていた。
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