北の大地

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2人は私が泣き止むまで待ってくれていた。チエさんはあの時の様に手を優しく握ってくれていた。 「あの、、、あの時は本当にありがとうございました。あなたに救われました。」 「いや、何もできなくてすまなかった。感謝ならチエさんにすればいい。良かったな、チエさんに出会えて」 そう言って私の頭をくしゃっと撫でた。まるで泣いていた私を宥めるかのように。 「チエさん、俺で力になれることがあればいつでも声をかけて下さいね。家も近いんだし。」 「柊ちゃん、いつも本当にありがとうね。お父さんによろしくね。」 「はい。では。」 そういうと彼は敬礼をした。 「なずな。君も何かあったら俺を頼れ。俺は橘柊【たちばなしゅう⠀】だ。そこを少し行った所に家がある。足が不自由な親父と2人暮らしだから男手しかないが少しは力になれるだろう」 「あ、、、はい!あ、ありがとうございます」 なずな、、、名前で呼んでくれた。 その響きが頭の中を支配する。 嬉しさ、戸惑い、、、 ねぇ、この感情はなんて言う名前なの? 今までに感じた事の無いこの感情が何なのか私はまだ知らなかった。 この胸の高鳴りも 頭の中を支配されていく感覚も 全部、全部初めてだ。 「なずなちゃん?」 チエさんが驚くほどに私は無意識のうちにぼーっとしていたのだろう。 「あ、ごめんなさい。畑仕事、やりますね」 ここに来てからというものの感情の忙しなさといったら。色付いた世界が沢山の色に染まる。 今の世界の色は何色、、、?
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