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「私、呼びに行ってきますね。」 「お願いね。」 私はこの場所が好きだ。 元の世界に未練が無い訳では無いし、本当にここに居て良いのかも分からない。でも、、、この場所に居たいと心から思った。 「お邪魔します。支度ができたので迎えに来ました。」 「分かった。今行くから少し待っていてくれ。」 柊さんとお父さんがゆっくりと出てきた。柊さんの姿を見ただけで心がザワつく、、、 柊さんのお父さんは杖を付いていたけれどとても歩きにくそうだった。 「あの、良かったら私の手を貸しましょうか?」 「なずなちゃんが?嬉しいねーこんな可愛らしいお嬢さんに手を引いてもらえるだなんて。」 「親父、調子にのるなって。なずなもいくら親父とはいえあまり気軽に女子から進んで男子と手を繋ぐものではないぞ。」 「え、、、」 柊さんが私の手を引いてくれた時の事を思い出した。 「お前は堅すぎる。なずなちゃんの厚意を無駄にしろと?」 「、、、俺が引いてやるよ。」 そう言って柊さんがお父さんの手を引いた。 何だかそれがおかしくてくすりと笑ってしまった。あの日みたいに。 「笑い事ではないぞ!君は本当に困った奴だ。」 お父さんも笑っていた。 私はあの時と同じようにその気持ちが嬉しかった。今はもっと嬉しくて、そして切なくもあった。 本当に忙しない感情だ。
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