「難しい」

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「難しい」

 普段はとても優しいし。面白ぇし。……すげえ良い奴。  ――――……だけど、そういう時、になると。   ケダモノに変身、するのか、本性を現す、のか。  オレに好きだと言う啓介は。  そういう、一部。ケダモノだけど。  本当に、女にモテる。 ◇ ◇ ◇ ◇  授業が終わって一緒に帰り始めた所で。 「啓介くん、雅己くん!」  女の子の3人組に呼び止められた。  その内の1人の女の子は、絶対啓介の事を好きだと思う子。  オレはそういうのには結構鈍い、と思う。誰と誰が付き合ってるとか、そんなに興味もないし、気づきもしない。  そんなオレにもはっきり分かる位。絵に描くなら、目にはハートマークを入れてあげたい位の表情で、その子は啓介を見つめる。  その子以外の女の子達がオレに、一緒に飲みに行こう、暇な日が無いかとか言ってきてて、啓介は、その「啓介を好きな子」と何か話してる。  別に、女の子と飲むのは嫌じゃない。  何故か啓介と付き合う事をOKしてしまって。  さらに何故か、色んな意味で、啓介のイイナリになったりしているけれど。  女の子が好きな事には全然変わりはない。  だから、女の子に誘われて、嫌だとは、思わない。  啓介が女の子に誘われてるのだって、別に、いけない訳じゃない。  ――――……そう。普通なら、何とも思わないはずの、場面。 「雅己くん、今週の金曜日とか、どう?」  聞かれるけれど。   ……啓介とその子の会話が気になって、何となく適当に、そうだなぁ、とか言いながら。  ふぃ、と啓介を見上げると。 啓介はすぐに気付いて、オレを見下ろして、ふ、と笑う。 「堪忍な、ここ最近色々忙しいねん。今週末も用事があるし」  ……嘘つけよ。暇じゃんか。  先週末だって、ずーっと、2人でのんびりして、ぶらぶら出かけたり。  平気な顔して嘘つきやがって。  ……こいつの嘘には気をつけよ。  と。一瞬思うけれど、それが嘘だとは、なぜか口には出てこない。  それどころか。「な、雅己?」と啓介に言われて、素直に頷いてしまった。  えええ~、とブーイングの女の子達に、軽く謝って。 「堪忍な、今日もこの後用事あんねん、またな」  言いながら啓介は、オレの背中に手を置いて、歩き出した。 「――――……」  何だか……。 何故だか、一瞬ホッとした自分。  ――――……いまいち、よく分からない、感情。  何で。女の子に。飲みに誘われて。  それを啓介が、嘘付いて断ったことに、ホッとするんだ……?  ――――……全然、わかんねえ。  そうして、女の子達から逃れたオレと啓介は。  しばらくしてから、歩く速度を緩めた。 「――――……全然オレら、忙しくないじゃん……」  平気で嘘ついたな、と。言ったら。  啓介は、ぷっと笑って。 「……頷いたんやから、お前も同罪やけど?」 「――――……」  確かに……よく分からないけれど、共犯者になってしまっていた。  何となく無言で居ると。 「雅己、オレん家、来ぃひん?」 「え? 今日?」 「ん。――――……あかん?」 「……」  うーん……。  ……だって、一昨日も泊まったぞ。  啓介とこういう関係になってから。しばらくは、週末に泊まる程度だったのに、なんだか最近、頻繁になってきた。平日でも、誘われたりする。  ……泊まったら必ずそういう事する訳じゃないけど。  でも、必ずベッドは一緒で。抱き締められて眠る。  何か、最近、ちょっと多すぎる。   慣れきってしまいそうで、ちょっと怖い。 「……家帰る」 「何で?」  何でって……1人で、健やかに、眠りたい。  ……なんて、思うのだけれど。 「……どうしても、あかん?」 「――――……」 「オレ、お前と居たいんやけど――――……」 「――――……」  そんな事、言われても……。  大体、明日も学校だし……。 「ガッコの荷物なら、バイクで取りに行ったるから」  まだ何も言ってないのに、先回りしてそんな風に言われて。  見つめてくる、優しい瞳。  ――――……あぁ、もう、本当に……訳が分からない。 「……行けば、いんだろ」  言うと、たちまち笑顔になる、啓介。  ……オレ、最近ますます、コイツの、イイナリじゃねえ?  最近、こいつの言う事で、断れた事とか、あったっけ。  全部断れずに、言うがままになってる気が、するんだけど……。  友達として、めちゃくちゃ好きだった奴に。  告白されて。  好きすぎたせいで、断れずに、受けて。  ――――……あっという間に、体、繋がって。  嫌だし戸惑うんだけど、気持ちよくて、あんまり抵抗もできず。  抵抗できないのは、好きだからなのかもしれないとか、  思っちゃうけど――――……。  ……でも。  啓介が元々女の子を好きなのも知ってるし。  ――――……こんな関係ずっと続くと思えないし。  あんまりのめり込むのも嫌で、セーブもかかるし。  大体、好きなのは絶対だけど、その好きが、  親友の好きが強すぎるのか、  啓介が言ってきた、恋愛の好きなのかも。  どこからその好きになるのかが、よく分からないし。  考えれば考える程、よく分からなくて。  それでも、この世で、啓介の事が一番好きかも。  とは。思うんだけど。  でもそれは、高校ん時から思ってたし。  だからやっぱり、それは親友の好きなのかなあとか。  だったら、啓介と、そういう事はしちゃだめなのかなーとか。  好きの境界も。  そういう事を、どの位好きになったらしていいのか、とかも。    何だかほんとに難しい。
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