「バスケの皆と」

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 高校時代、啓介とはいつも同じチームだった。    対外試合は当然だけれど、チーム内で適当に別れて紅白戦をやる時も、コンビでの連係プレイの練習のために、必ずオレ達は同じチームに居た。  よく考えたら、練習の短時間のミニゲーム以外は、啓介が敵チームで戦った記憶がほとんどない。  一緒に居ると、すごく、頼もしい。  居てほしい所に居てくれて、欲しい所でパスをくれる。  啓介が転校してきてくれて、バスケするの、ますます楽しくなったっけ……。 「――――……」  ――――……絶対、負けないから。  日頃の鬱憤も込めて、絶対勝ってやるー!! 「要、しょっぱな、3点狙うから」 「OK」  こそ、と要にいうと、 ふ、と要が笑う。  開始数秒。スリーポイントを狙った位置でパスを受けて、シュートしようとした瞬間。急に現れた啓介にまんまと邪魔された。 「――――……バレバレ、雅己」  にや、と笑う。    ……くっそーー!!!   誰に止められるよりムカつく。  そこからは。  ――――……大会レベルの真剣さで。  めっちゃ戦った。 「――――……もーむり……」  体育館に、倒れる。  ――――……オレが無理矢理付き合わせた仲間達も一緒に倒れた。 「雅己、おまえ――――……」 「……2試合連ちゃんなんだしさー……」 「……普段、運動不足、なんだからさー……」 「――――……もうむり……」  休憩を入れたとはいえ、2試合連続のハンデのせいもあり、結局後半、あと一歩が追いつけなくなり、結局わずかな差で、負けた。  ……悔しすぎる。  ……くっそーーー! 「……雅己、大丈夫かー?」  クスクス笑いながら、仰向けに倒れてる雅己の隣にしゃがみこんだ啓介に、周りから一斉にブーイング。 「……倒れてんの雅己だけじゃねーだろ!」 「こっちも心配しろー」  そんな声に啓介は苦笑い。 「せやかて、雅己の走り方が一番やばかったから――――……」  む、としたまま、上から見下ろしてくる啓介を睨む。 「――――……お前、次すぐ試合だろ。負けてこいよ」 「……はいはい」  啓介が苦笑いをしながら、歩き去っていった。  くっそ。  ――――……啓介、やっぱ、速いし、うまいし。  やる気になった時の、瞳が鋭くて。  ――――……やっぱ、バスケやってる時が、一番カッコいいな。  初めてバスケ部に来た啓介を見た時、あんまりカッコイイバスケをするものだから、ほんとに驚いたっけ。なんて、遠い遠い記憶を呼び起こす。  けれど、悔しくて、すぐにその記憶を頭から、吹き飛ばした。  ――――……あー、すげえ悔しい。  試合負けてもいいから、あいつから、3ポイント決めたかったなー……。  しばらく倒れていたけれど、息が落ち着いてから起き上がり、体育館の壁に背中をついて、もう一度ふー、と深く息をついた。  同じ様に起き上がった皆が話し始める。 「なんかここまで走るの、すげー久しぶり……」 「走んねえよな、大学生って」 「体育も適当だしなー」 「ほんとほんと」 「……体なまるからたまにやろうぜ」  オレが言ったら、皆、クスクス笑いながら、頷く。  目の前で試合が始まる。  なんか。 「啓介、手抜きじゃね?」」  ぼそ、と呟くと。 「……つーか、あんだけ雅己について動いてたんだから、結構キてると思うけど」 「そーだよ、お前、むちゃくちゃ。真剣度Maxだったじゃんか……」 「……啓介に負けたくなかったんだよ」  オレがそう言って、壁にズルズルと沈み込むと。 「お前、ほんとに啓介好きなー」 「……は?」  いま何と? 「あいつ引っ越してきてからずっと、啓介大好きだもんなー」 「……大好きなんじゃなくて、負けたくなかったんだっつーの」  しかも大好きって。  何言ってんだ、こいつら……。 「大好きだから、負けたくないんでしょ?」 「違う。むかつくから、負けたくねーの」  周りの皆が、ぷぷ、と笑う。 「この試合終わったら、いける奴らで、飯食いにいこっか」 「いいね」 「そーしよー」 「雅己は?」 「んー、たぶん行ける」 「多分て?」 「啓介のバイクで来たから……啓介が行くなら」 「はいはい」 「なに。はいはいって」 「だから結局啓介が大好きなんでしょ」 「一緒に来ただけだし」 「だから、今朝一緒に居たって事でしょ? 仲良しだよねえ、ほんと」 「―――……っ」  要のクスクス笑いに、ぐ、と黙る。  確かに一緒に居たけど……。  何となく黙って、試合を眺める。  ――――……やっぱ、うまいなぁ……啓介。  傍から見てると、分かる。  別にオレだけにとって、やりやすいんじゃなくて。  多分、誰にとっても、啓介と組むと、やりやすいんだろうなと思う。  全体を見て、場をよく読んで、誰にパスを出して攻めさせるか、それとも自分で行くか。常に気を配ってる、感じ。  安心感が、半端なかったもんなあ、啓介とバスケしてると。  その安心感が……確かに、大好きすぎて。  大好きすぎるから、今の関係も、断れなかったし。  ……断ったら啓介と居れなくなるのかなって、思ったから……。  緩くドリブルしながら誰かにパスを出そうとしてた啓介が、急に速く動いてマークを外し、手本みたいなシュートを決めた。 「おー、啓介かっけー!」 「さすがー!」  一緒に見てた皆がはやし立てる。  見学してた女子達も、キャーキャー言ってる。  なんかむかつく、なー……。  むす、としてると。  啓介が汗を拭きながら、こっちを見て。  むす、としたオレを見て、ぷ、と笑った。  ――――……何、笑ってンのかな、ほんと。むかつくな。    そのまま、啓介のチームが勝利して、今日のバスケは終了。  着替えたり、片づけたり、帰る準備をして、そのまま結構な大人数で、昼を食べに行く事になり、近くの和食の店が広い座敷があるというのでそこに決まった。 「雅己」  啓介が隣に来た。 さっきのまま、少しむっとして、見上げる。 「行くやろ?ごはん」 「……お前行くなら」 「ん?――――……ああ、バイクあるから?」 「……そうだけど」 「別にあの店からなら、おまえんち、歩いて帰れるやろ?」 「……ん?――――……あ、そっか」  啓介に言われて、そっか、別に啓介が来る来ない関係なく、いけるのか……と思いながら、啓介を見上げてると。 「――――……オレんちに帰るていうなら、バイク乗せたるけど?」  ふ、と笑って。  ――――……まるで、オレが絶対それに頷くかのような聞き方で。  ……なんだか、それが、またムカついた。 「……いい。 自分ち帰る」  ぷい、と啓介から離れて。  要たちの居る所に近づく。 「要たち、店まで歩いてく?」 「うん。歩くよ」 「じゃ一緒に行く」 「啓介のバイク乗ってくんじゃないの?」 「いい。歩く」 「ふーん? まーいいけど。 啓介、バイクで店いくのかー?」 「ああ。とりあえずオレ先行っとくわ」  普通にそんな風に言ってる。  まあ……別に、無理やり乗ってけとは、いつも言わないけど。    そんな風に普通に答えてる啓介に、若菜が近づいてく。 「先輩、バイク一人ですか?」 「ん、そやで」 「後ろって、乗せてもらえたりしますか?」  聞こえるけど。見ない。  そっちは見ない。  頑なに見ないでいると。 「別にええよ。店まで、5分やけど」 「全然良いです! 嬉しいー!」 「はは。そんな嬉しいん?」  クスクス笑って、啓介が答えてる。  ――――……。  乗らない事、選んだのオレだけど。  ……ふーん。  ……女の子、乗せるんだ。  …………ふーん……。  別に、良いけど……。  オレは、なにも聞こえない、聞こえてない。    皆と楽しく話しながら、店に向かって歩き出す。  おそらく駐輪場に行ってた啓介が、若菜を乗せて、歩道の近くを減速して走りながら、「先行くなー」と言いながら、消えていっても。  ……気にしない気にしない。  啓介んちは、親父さんがバイクを好きな事もあって、高校で免許取って、バイクを買ってもらってから。啓介のバイクなんて色んな奴が乗せてもらってて。  だから、今更、こんな5分位の道、啓介の事を大好きな女子を乗せていったからって。  ………何にも気にならない。筈。  そもそも、オレの好きは、別に、そんなの気にする、好き、じゃない、筈。  啓介と付き合うって言ってしまってるけど。  それは恋愛感情で好きとか、そんな風には思った事、無いはずだし。  ……これ、オレが気にするって。  変だもんな。    気になんか、なって、ない。
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