「仲直り」※

1/11
前へ
/246ページ
次へ

「仲直り」※

 バイクで現れて、ヘルメットを外した啓介は髪が濡れてて。  何を言うより聞くより、オレから先に出てきた言葉は。 「……なんでそんな、濡れてんの?」  ――――……だった。  啓介は、肩を竦めて、答える。 「頭冷やそうと思って、シャワー浴びとったから」 「じゃなくて……乾かしてから来てくれても良かったのに」 「……そんな事してる余裕ないわ」 「シャワー浴びてたから、メッセージ見るの遅かった?」 「せやかて、お前からは連絡ないと思うてたし」 「……何で?」 「お前からしたら、オレが何で怒ってるか、きっとちゃんと分かってないやろうし。 もう知らんとか出てきてしもたから」 「――――……」 「怒ってるやろうし、嫌われたかなとも思うて。――――……どう連絡しようか、ずっと考えてた」 「――――……とりあえず、おまえんち、行ってから、話そ……?」  オレが言うと、「ん」と、ヘルメットを渡されて。  ――――……これ、さっき若菜がかぶったんだよな……。  なんて思うと、何だか胸の奥がまたモヤモヤする。  けれど言葉にはせずに、黙ってかぶると、啓介の後ろに乗り込んで、腰につかまる。  さっき、あの子も、啓介の腰にしがみついてたのかな。  見ないようにしてたから、分かんないけど。  ……モヤモヤモヤ。 「ちゃんとつかまってて」 「ん」  走り出したので、少し強く腰に、抱き付く。  ――――……啓介が訳わかんなくて、どうしようかと思った。  もう、こんなあっけなく、終わりなのかなとか。  オレたちって、この関係が終わったら、もう友達にも戻れないのかとか。  どうしようかと思ってただけで。  オレは、怒ってはない。  嫌いなんて、考えもしなかった。  ……ていうか、本気で啓介を嫌いなんて思った事、あったっけ。  ベッドの上で啓介が意地悪な時には、嫌い、のような言葉を言ったりもするけど。でもそれは、別に本気で嫌いな訳じゃないし。  ――――……連絡、しようとしてくれてたなら。  こいつも、まだ、オレのこと、「知らん」とはなってないって事でいいんだよな。  ――――……つか。  オレらの関係って。  付き合うって。  ――――……んな簡単に、「知らん」で、離れちゃうようなものなら。  ……友達の方が断然良いのではないだろうか。  バイクを停めて、マンションのエレベーターを上がって啓介の部屋に帰ると。靴を脱いで上がった瞬間に、抱き締められてしまった。 「……キスしてもええ?」 「……今更、キスいいか、聞くの……?」  逆にそれに距離を感じて、そう聞いたら、啓介はすごく困ったように苦笑い。 「せやかて――――……怒ってないん?」 「……怒ってたの、オレじゃなくて、お前じゃんか」  オレは、胸が、 モヤついてただけだし。  何となく視線を逸らした時。  唇が重なってきて、ゆっくり目を伏せた。 「――――……ん」  少し荒っぽいキス。  ――――……何だろうな。やっぱりまだ怒ってるよな、こいつ。  思うままキスされた後、その唇が、首筋に触れた。  べろ、と舐められて、驚いて声が上がる。 「……ぅわっ、やだっ」 「――――……何で?」  啓介を離そうと藻掻くのだけれど、離せない。 「嫌、だ、すげ、汗かいたし……っ」 「別にええ」 「っ……嫌だ……っ寝転がってたし……っ汚いって。なめ、んなってっ」 「ええ言うてんのに」  「や、だっっ!」  暴れてると、啓介が、はー、と息を吐いた。 「来て」  腕を掴まれて、バスルーム。  あれよあれよと脱がされて、中に押し込まれる。  すぐ啓介も、服を脱ぎ捨てて、中に入ってくる。  めちゃくちゃ、緊張して、啓介に背を向けていると。  シャワーでお湯を出しながら、啓介が、オレの腕を掴んで、自分の方を向けさせた。 「……オレ、いつも、めっちゃお前の裸、見てるけど」 「……っ」 「……何で風呂、恥ずかしいん?」 「――――……っ」  デ、デリカシーを持てよ……っ!!  明るい所で裸で向き合うとか、恥ずかしいに決まってんじゃん!! 「そんな真っ赤になられると――――… ヤバいんやけど」  ……知るか、もう……バカ!  シャワーを浴びたまま、キスしてくる。  めちゃくちゃ、深い、キス。    もうさっさと体あらって、早く、出たい。  ……いつも体見られてるのになんで恥ずかしいか?  ……っわかんねえよ。  明るい所で、立って、向かい合って、  完全にお前見上げて、体格差を思い知るというか。  ……何だろう。  お湯かけられたり、洗われたりするのも、はっきり言って、すごく嫌。  いつもなら風呂も拒否るのに、微妙な雰囲気だから、つい、抵抗せずについてきてしまったけれど、 すでに、激しく後悔。 「お前さっきシャワー浴びたんだろ、先に出てて、いいってば」  キスが離れた時に告げた言葉を聞いて、面白くなさそうに、目を細めて。 「洗ってやるて」  だから、それが要らないって……っっ  ……誰か助けて。 「話、する、て言ったじゃん」 「――――……あとで、話そ。オレ、とにかく、お前、抱きたい」 「……っ」 「変に突き放してしもたから……すぐ抱きたいのに、汚いから嫌や言うから来たんやんか」  ボディスポンジにボディシャンプーを泡だてて、するりと肌を撫でていく。  自分で洗えば何も感じないその行為なのに、啓介にされると、ぞわりと、慄いてしまう。 「……っ……ぞわぞわするから、自分で、やるってば」 「――――……わざとやし」 「……っ」  首筋も、胸も、脇腹も。  普段なら、何も感じないのに、ゾクゾクして、息が、上がる。 「――――……やっぱ……いや、だって」  手を離させようとするけれど――――……。 「……じっとしといて」  ちゅ、と頬にキスされる。  全身、するすると、洗われて。びく、と震える。 「――――……っ……んん……ぁ……」  感じる所をわざとなぞられて、刺激されて、自然と勃ってしまったそれを、啓介が握った。 「……や、……」 「ええよ、イッて……」 「……っ……」  泡でゆるゆる滑らされて、いつもと違う感覚に、あっという間にイかされて。のけ反った唇を塞がれる。 「……んん……っ……ん……ぅ」  ……うう、だめだ。  ねっとり、じっくり、やる気だ……。 「頭、洗うから目つむってて」  キスを離されたらそう言われて。  シャンプーを付けられて髪を洗われる。  ……これは、ただ素直に気持ちいい。  しばらく優しく洗われて、それからシャワーで流された。 「――――……さっぱりした?」 「うん」 「――――……雅己」  むぎゅー、と抱き締められて、めちゃくちゃキスされる。 「……けい、すけ。も、出ようよ」  胸を押して、啓介を離させる。思ってたよりも素直に離れてくれて、風呂場から脱出できることになった。  先に脱衣所に出た啓介が、バスタオルを、オレの頭からかぶせて、優しく拭き始める。 「自分で拭けるって……」 「えーから」  なんか、風呂場でオレに触ってる間に、少し落ちついてきたのか、  何だか少し、いつもの、優しい啓介に戻ってきた、気がする。
/246ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4502人が本棚に入れています
本棚に追加