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突然の来訪
玄の国、最奥の間。
ツキシロが朱の国から持ってきた夢見草の若木は、もう見上げるほどに大きくなり、春になるとそこそこ見栄えのする白い花をつけるようになってきた。
今日も、ツキシロが夢見草に泉の水をやる。ピッチャーの中身を空にして、ふと梢を見上げた。
寒いこの国でも、やっとここまで大きくなった。
でも、……。
「なんっか……変なんだよなぁ」
「……やっぱりそう思う?」
並んで立っていたハイシロが応える。
「ハイシロも変だと思ってた?」
「思ってた。……なんか、……普通の木だよね?」
ツキシロがハイシロを見た。
「そう、普通の木なんだよ。……なんかさ、吸ってない気がする」
「ツキシロの分解拡散能力が上がっちゃったから、分かりにくいけど、私も吸ってないと思う。あれは、ただ拡散して消えてるだけだよ」
「前の木、最初はこうだったのかも、そのうちちゃんと吸えるようになるのかも……とか思ってたんだよね。もらったばっかりの時の記憶が、今一つ曖昧でさ……」
「違うと思う。だって、あの当時はまだちっちゃな鉢植えだったけど、ちゃんと吸ってたよ。今みたいにミスト状じゃなくて、完全オーブだったけど、吸えてたもん」
「そうだっけ?」
「そうだよ!」
二人して、また木を見上げる。
前の木と、今の木、同じ夢見草なのに、何が違うんだろう……。
「しばらく『時間巻き戻し刑』くらうようなヒトがいないからいいけど、来たら困るでしょ。記憶、完全には消せない」
「だなぁ……。吸ってくれないんじゃ困る。誰に相談したらいいと思う?」
「前の木くれた人? 老賢者様?」
「の、誰?」
「……分かんない」
今時、どの老賢者も長生きしすぎによる省エネモードで、定例会議以外に会って話す手続きをするだけで面倒くさい。他に誰かいないか二人で思案する。
「同じ位長生きで事情通って言ったら……」
「シロガネ! ……て、だめだ、フレアにくっついて旅行中だった」
「えー……じゃぁ、帰ってくるまで待つ?」
「……冬まで帰ってこないんじゃない?」
「そんな先?……また、忘れるよ」
「は? そんな大事なこと忘れちゃうの?」
「だって、夢見草のそばで力使わないと思い出さないんだもん」
「……そりゃ、そうかぁ」
二人で溜息をつく。
そこへ、黒ずくめ門番がやってきた。
「ツキシロ様、客人がお見えです。謁見の間へお通ししてよろしいか」
「客?」
「誰だろ?」
二人、顔を見合わせた。
「お客って一人? 紹介なし?」
「はい」
「だったら、謁見の間は大袈裟じゃない? 継ぎの間くらいでよくない?」
「それでは我々の護衛が……」
「そんな危険人物風なの?」
「……」
門番が口ごもる。再び、二人で顔を見合わせる。
「じゃぁ、継ぎの間で護衛二人くらい付けて……」
「……それならば、まぁ……」
しぶしぶといった様子で門番は了承した。
客人、そんな珍妙な風体なのだろうか?
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