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小料理屋はるひ
夫婦で営んでおり、従業員は全部で四名という小規模店舗。そこで料理を作るのは店主と紺野。接客は店主の妻と、同僚男性が一名という構成だ。
美月が事前に調べたところ、気軽に和食を楽しめる店として、くちコミサイトでの星の数はそこそこ高かった。
投稿者によるコメントもおおむね好意的。一名様から立ち寄れて、十数名での会食も可。生活圏内から外れていたこともあり、利用したこともなかった店に行くのは、心が浮き立つところである。
店については、昼休憩のちょっとした時間に聞いたことがある。
根掘り葉掘りというわけではないけれど、どんな店なのかを訊ねた話の流れで、紺野自身が話してくれたのだ。
店主である春日哲史とは、数年来の付き合い。
同じ料亭に勤めていたが、独立する哲史から誘いを受け、円満退社で移った経緯があるらしい。
二人が最初に勤めていたのは、とある高級料亭。紺野家は料理人の一族らしく、親戚の紹介で入った店だ。
コネ入社みたいだな、なんてひそかに思った美月だが、そういうことは存外に多いらしい。
仕事を始めたはいいが、だんだんと悩むようになってきた。
繊細な味付け、芸術性の高い料理。客層に合わせた高級感あふれる料理は素晴らしいけれど、紺野自身はもどかしい想いを抱えるようになっていったという。
大衆食堂やラーメン屋、縁日や海の家のバイトなど。
すぐそこにお客さんがいて、顔が見えて声が聞こえる距離で料理を提供し、ダイレクトに反応を感じる。
自分にとって比重が高いのは、そういった部分なのだと痛感したらしい。
彼のそういった気持ちは周囲にも透けていたらしく、哲史はくすぶっていた紺野に声をかけたし、店の大将もまた、彼を送り出してくれた。
感謝してるよ――と笑った顔は清々しくて、以前の店とも良好な関係だったのだろうなあと、なごやかな気持ちになったものだ。
職人の世界はすごいと、一般事務員の美月は感嘆の息をつくばかりである。
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