小人さん語り<手紙編>

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小人さん語り<手紙編>

 キッカケは、些細なことだった。  回収してきた箱の中にあった、二つ折りの紙だ。  容器をそのまま入れて返してくる奴は、存外多い。ついでとばかりに紙コップやら味噌汁の空袋やら、もっとひどいとタバコの空箱なんかも入っているので、これもそのたぐいだと、紺野(こんの)瑞貴(みずき)は考えた。  ただ、それにしては綺麗に折り畳まれていることが気になり、開いてみることにする。  クレームだったら、対処が必要だ。無視はできない。 『カレー、おいしかったです。これ、ラー油が入ってたりしますか?(違ってたらすみません)』  真っ白なメモ用紙に書かれた内容に、瞠目する。  いままで、一発で言い当てられたことはなかった隠し味。中華料理店を営んでいた祖父が作っていた、メニューには載せていないカレーである。  働いている店の賄いとして作っていたものを店主が気に入って、今回の弁当メニューにも採用されたのだが、まさか顧客に見抜かれるとは思わなかった。  箱の側面に貼られた名前を確認する。  会社名と、六桁の社員番号。その隣に「今野み」とある。  今野。  コンノ。  ……まさか、コンノミヅキ?
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