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和食だけが達者なのかと思えばそんなこともなく、衣がサクサクしたコロッケに、肉汁を閉じ込めたミニハンバーグなど。さすがに麺類はなかったけれど、コンソメスープは絶品だった。リピート確定だ。
なによりも美月を喜ばせたのは、個別に箱づめされていることだった。
つまり、誰がなにを頼んだのか、周囲には知られずに済むということ。
時差喫食に加えてぼっち食事が義務づけられ、衝立で仕切った自席での飲食となっているのだ。
(周囲の目を気にせず注文して、思う存分食べられる。サイコー!)
美月は、食べることが好きな女子である。
その食事量は、育ち盛り男子に引けをとらない。指定時間内に食べきったらタダになるメニューを制してきた記録保持者でもある。地元の中華料理店には、店主のおじいちゃんの自筆による「コンノミヅキ」という名前が燦然と輝いていた。
なお「ツ」に点々がついているのは、墨が飛んだせいらしい。
社会人になり、同僚の女子と食事をした際、衝撃に襲われた。
学生時代と違い、美月を知らないひとたちに囲まれた結果、遅まきながら――ほんとうに遅まきながら、己の食欲が少々特殊なのだと自覚したのである。
人目のある場所では、大盛りなんてもってのほか。「ごはん大」すら憚られ、すきっ腹を抱えながら仕事をする日々を送っていたが、これで会社でも思う存分好きなように食べられそうだとわかり、美月はこのサービスに迎合していた。
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