58人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
保温用の発泡スチロール箱は、ある程度の高さがある。注文量がどうであれ、使用される箱は同じものだ。コストや輸送を考えると、効率的だろう。
こうして大きな箱を持っていても、美月が男性向けのボリューム弁当を取っていることは、周囲にはバレない。食堂では、対面カウンターでの注文方式だったことを考えると、オンラインさまさまである。
食べ終えたあとは、容器を自部署で処分したのち、箱を返却する。
授受はすべて食堂だ。所狭しに並べられていた机は数を減らし、ソーシャルディスタンスとばかりに離されているため、社員同士の接触も少ない。
入口と出口も別々にされている徹底ぶりは、なかなかどうして見事なものだ。きちんと対策をしていますという、食堂の気迫が感じられる。
外部用の通門証を首からぶら下げた男性が、空になった箱をひょいと抱えて軽ワゴン車に積んでいるのを見たことがある。
あんなふうに、社外の人間が配達にかかわっているのだ。ここでなにかしら問題が発生すると、弁当サービスに協賛しているお店の信用にもかかわってくるのだから、当然かもしれない。
その食堂はといえば、受け取りと返却以外の人間を見ないことが、ひそかな話題をよんでいた。
弁当が置かれているのだから誰かがいることはたしかなのに、その姿を見た者がひとりもいないのだ。ミステリーである。
姿を見せず、けれど必要な時間にきちんと用意されている。
中身は温かで、改めてレンジで加熱する必要もない状態で受け取れる時間配分。
誰が呼んだか「食堂の小人さん」の仕事は、完璧であった。
最初のコメントを投稿しよう!