社員食堂の小人さんと秘密のお手紙

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 オンライン社員食堂は、他企業でも実施しているのだろう。好評を博しているのか協賛店が増えたようで、メニューに中華が加わった。  ラーメンはないけれど、汁なし担々麺の香りが執務室を占拠し、IDを申請する者も増えたらしい。水曜日が担々麺の日であるため、社内は担々麺に満ち溢れた。  チャーハンも素晴らしい。  油のしっとり具合と、パラパラさが両立している。単品だけでも満足の一品だが、餡かけチャーハンは他の追随を許さない旨さだと美月は思っている。もう閉店してしまった、地元の中華料理店を思い出す味だった。  美月は「食べるの大好き」ではあるが、特段グルメというわけでもない。  まるでどこかの漫画ように、食べただけで調味料を言い当てたり、隠し味を感じたりするような舌は持っていない。  すべて「おいしい」の一言だ。  なかなか残念舌だと、自分でも思う。  そんな美月だったが、満を持して登場したカレーに戦慄した。  人気メニューともいえるカレーの登場に皆が喜び、金曜日はカレーDAY。  一風変わった辛みはいったいなんなのか、衝立を挟んで疑問が飛び交うなか、美月は確信していた。 (これ、きっと、ラー油だ)  美月が通った中華料理店の裏メニュー。  中華なのになぜかカレーがあるというカオスな店だったが、ラーメン用の出汁を使ったカレーはとても美味しかった。  味はあっさりめ、そこにコクと辛みを作り出していたのが、ラー油である。  常連の美月に、じいちゃん店主が教えてくれた秘密の味だ。  体を壊して店をたたみ、二度と食べられないと思っていたあの味に巡り合えたことに美月は興奮し、返却用の箱にそっとメモを忍ばせた。
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