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翌週の月曜日。天丼をチョイスした美月は、どんぶりの下に折りたたまれたメモがあることに気づいた。
食堂の小人さんにしてはめずらしいミス。
うるさいひとならば、文句を言いそうだなーと思いながら開いてみると、そこには綺麗で読み易い手書きの文字が並んでいた。
『いつもオンライン社員食堂をご利用いただき、ありがとうございます。カレーの味、よく気づきましたね。驚きました。今後ともごひいきに』
(うわあ! 小人さんからのメッセージだ)
未知との遭遇。
見えない精霊のような食堂のヌシが、実は人間であったのだと、至極当たり前の事実に、美月は動揺した。
たとえば通販でなにかを購入しても、印刷された定型文が同封されているだけで、こんなふうに「中のひと」を感じることはないといっていいだろう。
こそばゆい気持ちになりながら、返事とばかりにメモをしたためた。
かつて通っていた店のカレーによく似ていたこと、とても懐かしかったこと。これからも楽しみにしていることを加えて、箱に入れておいた。
翌日の唐揚げプレートにはやはりメモが入っていて、昨日とおなじ人物であろうひとの字が並んでいる。
なんとも丁寧なひとだ、と美月は感心した。
和食、洋食、中華。どのジャンルを注文しても、同じひとが用意をしているのかもしれないと気づいたのは、御礼メモを入れるようになって一ヶ月ほど経ったころだろうか。
たぶん、各会社ごとに担当者がいるのだろう。その証拠に、漬物が苦手でいつも残して返却していた同僚は、付け合わせがぷちサラダに変わったらしい。
きめ細かなサービスに、オンライン社員食堂の株は上がるばかりである。
社食としては高いけれど、外食としては適正価格。
外での飲食が制限されるなか、会社でそれらが食べられるのはとても嬉しいことだった。
女子向けの簡易カフェプレートも登場し、とても人気らしい。たしかに見た目もオシャレだったけれど、あいにく美月はがっつり派である。
しかし「今野さん、あれどうだった?」などと訊ねられることも多く、これは一度ぐらいは味わっておくべきかもしれないと注文したところ、驚きの事態になった。
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