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オンライン社員食堂は、法人契約を結んであるのか、代金は給与天引きされる。これなら提供する店側も資金回収に悩むこともないだろう。
どれぐらいのマージンがあるのかは知らないけれど、最終的な仕上げは食堂内の調理場を使っているらしいことは、漂う香りで知れた。
たしかにそうでなければ、熱々の状態で提供するのは不可能だろう。
(それでいてなお、配膳風景を誰も知らない。小人さん、まじ小人さん)
食堂で働いていたパートさん説が濃厚だが、ならば姿を隠す意味はあまりないだろう。
ならば、とてつもなくシャイなひとなのだろうか?
メモの印象は、落ち着いた物腰の美人。
字が下手な美月は、彼女の美しい字にも魅せられている。
(きっと指も綺麗で、でも料理するからネイルとかはしてなくて、髪もきちっとまとめて、すらっとした美人。きっとそう)
言うまでもなく、美月の願望である。
年齢もわからないし、彼女自身が店を持っているともかぎらない。このサービスのために雇われているかもしれないのだ。
けれど、もしも働いているのであれば、通いたいと思うぐらいには、彼女の料理と人柄にすっかり惚れ込んでしまった。美味しいものは正義である。
百均のチープなメモ用紙じゃ申し訳ないような気がして、同じ百円でも色や模様の入った綺麗目なものをチョイスするようにした。
ちいさな手紙のやり取りをするなんて、なんだか学生時代を思い出す。複雑な折り方をうっかりネット検索する始末だ。
感化されたのか、向こうの手紙もただの四つ折りではなくなった。
美月が名前を記すようになったせいなのだろう。先方も名前が入るようになった。
驚いたことに、相手も「コンノ」さんらしい。
糸偏に甘いと書くほうの「紺野さん」である。美人は名前の印象も美しい。
今日は、和紙製の箸置きが入っていて、「よかったら、どうぞ」と、いつも丁寧な字が紙面で踊っている。どちらかといわなくてもズボラな美月は、これを大切に使うことに決める。昼食の楽しみが増えた。
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