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田植え、は酒造りを生業にするこの家ではとても重要なことだった。小作人たちが総出で田植えをするこの時期は、酒屋の者たちも忙しくしている。特にうちは神田があるので、そこの世話だけはこの家の者がしなくてはいけない。朝から晩までひっきりなしに働く日々だった。
「そうかい・・・・・」
春の兆しが見え始めるころには、着々と嫁を迎える準備が整っていた。といっても、こちらから結納の品を送った程度で、それも兄がけちけちし始めたのでうちの酒をずいぶんと送った。男の嫁に反物を送ってもしかたねえよ、という兄も兄だが、祖母までもがそんな調子だった。多少なりとも金目の物を送ってやったら、と俺が口を挟んでみても、あっちのほうが金持ちなんだから田舎もんの考える金目の物なんていらねえよ、と兄がまた却下する。
兄は東京の大学で醸造を学んでいたので、この村の程度をことあるごとに小ばかにしていた。
兄にしてみれば俺の案は、うちの恥になると逆に思ったみたいだった。
「あたしゃ、お前さんから酒米をもらった時、そりゃあ嬉しかったもんですよ」
「いね、よしな」
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