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それでも、まだそんな言葉を聞くには早すぎる。数年先にそんな悩みは先延ばしにしてしまえ、と気休めの言葉を口にしようとしたときだった、吐き捨てるように兄が細い声を振り絞った。 「バカバカしいにもほどがあるよ、花緒。お前さんが男でも女でも、もともとこの馬鹿には嫁でも貰って少しはましになってもらわないとこっちが迷惑なんだよ!子供が大人の話にはいってくるんじゃないよ、引っ込みな!行儀の悪い子を育てた覚えはないよ!」 母譲りの勢いの良い啖呵を浴びせられた花緒はぎゅっとすくんでしまい、出ていけといわれた矢先に逃げるように走って行った。大きな瞳からは涙がこぼれて、畳の上にシミを作っていた。 「兄さん」 「うるさい」 咎めるように声をかけたが、兄はそっぽを向いていた。その声色が震えているのは怒りが頂点に達したときの彼の癖だと、長い付き合いなので知っている。ぶるぶると、寒さではなく怒りで震える彼の手は、膝の上で煙管を握りしめていた。 「うるさいんだよ、どいつもこいつも」 ++++++++++++ 「花緒」
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