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ひっくひっくとすすり泣く声が押入れから聞こえてくる。花緒は悲しいことがあると、押入れの中に入って布団を涙でぬらすのだ。
「いれておくれ」
「平ちゃん、はいれないもん!」
「兄さんは花緒のせいじゃない、と伝えたかったんだよ。口が悪いのは叱っておいてやったぜ」
そう押入れの中に声をかけると、すんすんと泣いている声は聞こえているが返事はない。やがてすっとふすまが開くと、泣き腫らした目をした小さな女の子が顔をのぞかせた。
「馬鹿な平ちゃん。お父さまが平ちゃんに叱られるわけないわ」
「それがそうでもないんだぜ?」
「うそよ」
「ばれたか」
しまった、という顔をして舌を出すと、花緒がやっとくすくすと笑い始めた。
「なあ、花緒。花緒はどんな人に嫁さんに来てほしい?」
なんとなくそう聞くと、花緒は小さな眉を八の字に寄せて悩みはじめた。うーんうーん、と唸った末に迷いながら答えを絞り出した。
「優しいひと・・・・かな」
働き手を、と町で方々を探し回った一日を思うと、その花緒の答えはとても大切なものに思えた。
「俺もだよ」
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