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このときはまだどんな奴が嫁に来るかなんて想像もできなかったし、まさかあんな奴がくるとは少しも思っていなかった。ただ、この花緒と、兄と、この酒蔵と。大切なものを指折り数える自分にとって、その人を素直に数えられるかだけが不安だった。 「決まったぜ」 兄がそう言って帰ってきたのはその年の仕込みが終わって一息ついたころだった。降り積もる雪道を丁稚の少年一人連れて町まで出て行った日だった。ずいぶん帰りが遅い、もう今日は町へ泊っているのじゃないか、と皆思っていたころに、ぶるぶる震えながら帰ってきた。 「お前さん、大丈夫ですか?」 義姉さんが囲炉裏の火にの前に慌ててざぶとんを敷き、雪で重くなった外套を脱がせる。義姉さんは優しいので丁稚の少年にも囲炉裏に当たるよう申し付けて、二人にすぐ乾いて清潔な大判の手ぬぐいと着替えを用意した。 手慰みに藁で籠を編んでいた俺は、そのバタバタとした様子をぼんやりとみていた。すると兄がいつものように眉を吊り上げて怒り始める。 「てめえの話だよ!ちったあ興味ぐらいもちやがれ!」
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