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埃っぽい往来に真夏の日差しが照りつけている。呼吸をするのもおっくうになるほどの暑さだった。茶屋の娘がくれた団扇で顔に風を送ってみても、大して涼しくはならない。いっそこの着物を脱いでしまって、ふんどし一枚で人足のような恰好になれたらどんな楽だろう。 そんなことを考えてため息をつく。 兄の話はまだ終わらないらしかった。 「てめえ、今ため息ついたね。誰のためにこの暑い中挨拶回りしてると思ってやがる」 ちょうど奥の座敷から戻ってきたところだったらしい。間があまりにも悪かった。何を言っても最後には謝罪をさせられるので、早々に謝った。 「悪かったよ」 「お前の嫁さん探しなんだよ。もっと真剣になりな」 お茶の問屋のこの立派な店の中は、むせ返るような茶の匂いがする。手代たちが客と言葉を交わしている。兄を見送りに来た店の主人の姿が見えて、立ち上がる。服の乱れを直して、愛想よく礼をする。 「平次、あんまり平一郎を困らせるんじゃないぞ」 「旦那、ご無沙汰してます」
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