犬と私

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犬と私

 仕事が終わって社宅に帰るとどっと疲れが押し寄せてきた。  鞄を置いて手を洗い口を濯ぐ。  数時間前に職場の上司と言い争ったことを思い出し腹の中にある怒りの感情が爆発しそうだった。  こんなストレスの溜まる日々がいつまでも続くのかと思うと暗澹たる気持ちになる。いっそのこと会社なんて爆発してくれないかと思ったがそうすると金銭面で困ることになるので考えるのを辞めた。  何も考えたくないのでベッドに横になり目を閉じる。私は気がつくと眠りの世界へと入って行った。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  目を覚まして時間を確認すると午後八時になっている。どうやら1時間ほど寝ていたらしい。体を起こすと腹が鳴る。  日々の仕事でストレスがどれだけ溜まってもお腹が空くことが凡人であることを定期的に教えてくれる通知のように思えて憎たらしい。私はため息をついてジャージに着替えて、靴を履き家を出た。  外はすっかり暗くなっており冬を感じさせる冷たい風が吹いている。寒さを感じながらコンビニへ向かって歩く。  コンビニへ向かって歩いていると五十メートル先から人がやってきた。目を凝らすと人間とリードに綱がれている犬だった。人間には興味がないので視線はすぐに犬のところにいく。  犬は黒い柴犬だった。  黒い柴犬はせっせと小さな前足を動かし尾を揺らしながらぴょこぴょこと歩いている。  柴犬のことをじっと見つめていると柴犬と目があった。私は立ち止まって柴犬の輝いている黒い瞳を見た。柴犬も歩きながら私の顔をじっと見ている。  柴犬は飼い主と一緒に歩いて私の横をすれ違った。  柴犬をすれ違ったあと、私は謎の幸福感を感じていた。  先程まで感じていた仕事のストレスが和らいでいるような感覚がある。上手くいかない上司との関係に対策の一つも思い浮かんでいないけれどこの先、なんとかなるような気がした。  私は立ったまま黒色の柴犬が遠ざかっていく後ろ姿をしばらく見つめていた。
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