それぞれの門出

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 今回もまた、生き残ったか……。  私は、手の内で追加報酬の金貨をもてあそびながら、戦火の残る戦場を見下ろす丘の上に立っていた。  遠目に、戦場にうごめく中古武器回収業者が見える。戦死した遺体から、まだ使えそうな武器防具を回収して持っていくのだ。国も家も持たない雇われ兵が死んだら、ああなる。裸にむかれて野鳥や獣の餌だ。新品を身に付けていると、少なくとも生きる気力は湧く。下ろしたてを持ってかれなくて幸いだ。  とにかく自分が血生臭い。おまけに泥だらけだ。刀身にこびりついた諸々をこそげ落として手入れしてやりたい。だが、今は動くのも億劫だった。身体の芯に残った戦場の緊張感がまだピリピリと残っていて、神経だけが冴えていた。    ふいに至近で鳥の羽ばたきが聞こえた。見上げると、真っ白な大きな鳥が頭上を旋回している。 「やっと見つけたぞ! まだこんな場所をさまよっていたのか」 「……シロガネか……」  国を出て、傭兵生活に入った頃から何度もちょっかいを出しに来ていた玄の民だ。異能の集団が作った国に来ないかと、誘いに来ていたのだ。ニンゲンの間で生まれ育ってきた私としては、かえって異能の集団の方に抵抗があり、申し出を断り続けてきた。しばらく姿を見ないと思っていたら、まだこんなことを続けていたのだな。 「ええい……このままでは話しづらい……」  大きな白い鳥は、すぐそばに舞い降りたかと思うと人の形をとった。 「今回ばかりは何と言おうと、お前を玄の国に連れて行くぞ!」 「これまた強引だな。一体何があったんだ?」 「いや、これからあるんだ」  白いローブを纏った男は、大真面目にこちらを睨みつけた。 「……お主の話は、いつも突拍子もないな」  思わず溜息をつく。 「何とでも言え。……お前、アワの国の噂を聞いているだろう?」 「密かに兵を集めているという……あれか?」 「うむ。これから十数年後、アワは玄の国を襲撃に来る!」 「んん? 何ゆえに?」  それだけ聞いたら、ただの妄想の産物だ。 「王宮は、此度、年端もゆかぬ双子の姫君をお迎えしたのだが、その能力が欲の皮の突っ張ったニンゲンには垂涎の代物らしい。力ずくで奪いに来るのを阻止したいのだ」 「姫君……?」 「お前、そういうの好きか?」 「いや。……それで、何故私なのだ?」 「実戦経験のある能力者を探していたのだ。玄の民は元来争いごとは好まぬ。最近玄の国は大陸の民も受け入れ、中には兵の経験を持つ者もいるのだが、なにせ組織立っていないもので心もとないのだ。以前は国の為政者側にいて人を束ねた経験があり、実戦経験もあるお前が来て協力してくれれば、これほど心強いことはない!」  幸か不幸か、この先のことは何一つ考えては居なかった。折角新調した武器や防具をあまり痛めたくないという、些か武人らしからぬ想いと、ヤマバトの手前、自らも精一杯命を永らえるべきとする、新たな戒めがあるのみだ。 「……この際、今再びの宮仕えも、悪くはないか」 「よし、そうと決まれば……」  シロガネがまた鳥に変化する。 「待て、莫迦(ばか)! このままの成りで行けるか!」 「誠に、ヒトの成りは面倒だな」 「そんなことができるのはお主だけだ」  悪態をつきながら丘を下る。いずれかで水場を借りよう。                                                           < 終わり >    
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