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宿屋の立ち並ぶエリアにまで戻ってくると、広場の掲示板に人が群がっているのが目に入った。傭兵や武器商人に向けて、兵の募集情報やこれからもめそうな国の内情などの情報を提供しているのだ。さして興味もなく前を通り過ぎようとしたが、ふと思いついたことがあって立ち止まった。探し人の欄に目を走らせる。
心配していた人相風体の探し人がおらず、ホッとした。
あるいは見当違いであったか……。
「クロベニ!」
ふいに肩を叩かれて振り返る。うっすらと見覚えのあるような男が、ニヤニヤして立っていた。いずれ敵になる可能性もあるので、以前の戦場で縁のあった者の名前は忘れることにしている。よって、見たことのある顔程度にしか思い出せなかった。
「なんだ?」
「怖い顔すんなよ。お前、賊を捕まえたんだって? お手柄だったな。奴さん、職人街の真ん中で柱にくくられて晒されてたぞ」
「ああ……大したことは無い。成り行きだ」
「今、お前どこにいるんだ?」
やけに絡んでくるな……。
「緑の国側だ」
「なんだ。大河の向こうか」
相手が安堵の表情を浮かべた。
「俺は今、アワの国にいるんだ。見知った顔が敵になるのは寝覚めが悪いからな」
「ふん」
そうは言われても、そういうものだ。
どうやってこの場を切り上げたものかと思案していると、相手が顔を寄せ声を潜めてきた。
「アワの国は今、密かに兵を募集しているのだ。大分大国になったくせに、まだどこかに進攻しようとしているらしい。不確かな情報だが、とうとう大河を渡るかもしれん」
「ふん……。なるほど、ありがとう」
大国には、仕えないようにしている。大して興味もない情報だが、話を切り上げるために礼を言って踵を返した。
宿の自室に戻って、持ち合わせを数える。頭の片隅には、ヤマバトの顔があった。これだけあれば、誂えで革製の防具も新調できるか。いつ散るか分からない命なら、使いたいときに使ってしまって惜しくはない。
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