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海賊
じっと動かないそいつに、私にも緊張感に似た何かが走る。直近まで迫った足音にヒヤヒヤしていると、そいつの肩の力が抜けた。
そして足音が止む代わりに、明るい声が裏路地に響く。
「なんだロロネか!びっくりしたあ!」
どうやら知り合いらしい。案外広い背中から顔を出すと、明るい声には似合わない大男たちが五人ほど立っていた。
「ルイスかよ!びっくりさせんなってマジで!」
砕けた話し方に、どうやら仲間の海賊らしいということを察する。じっとその様子を観察していると、その中にいた黒髪の男と目があった。
「誰?」
黒髪の一声で、また裏路地がしんと静かになる。
「あぁ、この子?この町の診療所のお医者さんだって。俺のこと助けてくれたの」
ね?といつの間にか肩を組んでいるそいつと、そいつの仲間らしき奴らを見比べる。どうやら、悪い奴らではなさそうだ。
「え!ドクターなの!?丁度いいじゃん!俺らの仲間にならない?」
閃いた!というように、赤髪の一際でかい男が寄ってきた。
「え?海賊に?」
そう聞くと、うんうんと嬉しそうに顔を覗き込んでくる。
「悪いけど、そんな気ないから。こいつもたまたま見かけたから、助けただけだし」
ピンク頭の手を振り払って診療所の方に足を向けると、赤髪が立ち塞がってくる。
「ねぇ!お願い!いいでしょ?ね?」
両手を合わせて必死にお願いしてくる姿に、ちょっとだけ揺らいだり……するわけない。
「無理だから。誰が海賊なんかになるかっての。あ、そうだ。ちょっとそこのピンク頭くん」
ちょいちょいと手招きをすれば嬉しそうに寄ってくる。
「え?なに?俺?」
だからポケットに入っていた紙にペンを走らせて、それをそいつに突きつけた。
「えっ、電話番号とか?」
紙を受け取って嬉しそうに私を見るけど、そんなわけないから。
「んなわけないでしょ。これ、診察料。どうせあと何日かいるんでしょ?ここ出るまでに持って来て。値引きとかなしだから。じゃあね」
えーっ!と声をあげるピンク頭と、呆然とそれを見つめる赤髪の横をすり抜けて、診療所への道をまた歩き出した。
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