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ぐっと拳に力を込めて。すぐ抜けて、そりゃそうだよな疲れてるよな、ほくそ笑みながらノソノソと起き上がる。
若干顔を蒼くしながら、落ちて来た崖肌の中間、大人一人分ほど岩が飛び出した足場を睨んだ。
「ざっと 30 ってとこだな……まぁ1時間もありゃイケ──「るワケ無いでしょう! 何考えてんですか、普通に死んじゃいますよ?」
「いやいや、こう見えて実は俺──
「"木登りが得意なんだ!" とか 3 歳児向けの絵本に出てくるようなことを言うのはナシですよ?」
……ゴメンなさい、」
「やっぱりですか! まったくもぉ! 一日二回も崖からダイブする奴がありますか。そもそも──
両手を上げて降参した俺を、子猫が威嚇する時のようなジト目で叱ってくるヒルメ。
しかし頭身が逆になっただけで、(恐ろしいぐらい)顔と声には変化が無いというのに、あの敬語を使うほどに感じていたハズの気迫は、完全に希釈されてしまっていた。
「っ──て、ちゃんと聴いてます!?」
そんなキャワキャワした幼女をホワホワした気持ちでニヤニヤと眺めていると、流石に気づかれてしまったようで。
彼女は自分のつま先を震わせながら少しだけ身長を無理すると、園児の "あのね" に付き合うかのような態度を取っていた愚か者の首を、自分の正面へと力業で持って来た。
「ホラ、こっちですよ!」
昼間の食事未遂の時と同じように、ヒルメは俺の手を引っ張って来る。
触って良いのかと心配になる程 綺麗な手で、お揃いのボロボロな袖をはためかせて。
何も言わずに従って、やがて家の在った(過去形)場所を離れて、意外と美味しかったバケモノの亡骸も離れて──
……やがて、狭い狭い洞窟の入り口へと案内された。
吸い込まれるような闇にゴクリと唾を飲んで。人知れず赤色を完全に抜け切っていた空に、今更ながらお別れを告げた。
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