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「……むかしむかし、私のふるさとに恐ろしい怪物がやって来まして。まぁ頑張って戦ったんですけど結局は皆んな殺されちゃって。そこから何とか逃げていろんな場所を転々と、気づいたらあそこに居ました。お金も掛からず井戸もあって、まぁ身寄りのない難民には中々快適でしたよ」
ざっざっ、ざくざ、ざっざっ、ざくざ……
すぼめた口のまま、何も言えずに足音だけ。
「ただ動きすぎちゃいまして、帰り道分かんないんですよね。聞いても『知らない』ばっかりですし、ちょっと詰まり気味です。せめてお墓参りくらいしてあげたいんですが……」
ざっざっ、ざくざ、ざっざっ、ざくざ……
足跡だけがまた鳴った。後悔? 謝罪? 恐怖? 理由すらまとめられずどこまでも重くなっていく、足跡だけが鳴っていた。
「コウヤは知りませんか?、"オノコロ" って言うんですけど」
「……ゴメン、」
魔王サマよりよっぽどリアルで重々しかった理由を前にして。まごつきながらただ、どこに向けたかも分からない謝罪の言葉だけを漏らした。
「そうですか〜。んむぅ、中々知ってる人に巡れませんねぇ、地図も無いですし……」
「"地図" か……まぁ、ねーわな」
"地図"
この世界の地図ってのは、どこもかしこも穴だらけ。俺たち人類は今日もアオムシのおこぼれを齧ってる。
自然が強過ぎるんだ、この世界。食物連鎖から抜けれれどもトップにゃほど遠い。島を背負うやつやら季節そのものみたいな奴らにどう勝てってんだよ、
ガキの頃こそ憧れた。そんな穴だらけの世界に自分の血で名前書きに行く、そんな存在に。
けど見ろよ、今の俺を。
環境理由に何もせず、いざ相対したらトカゲ1匹にこのザマ。この幼女がいなきゃとっくに死んでたんだ。
自分の何倍も苦しみながら、強く生きてきていた、この白陶器のような小さな手の異質な硬さと強さを、フニフニと情けなく、敵と言えば精々台所洗剤が関の山である自分の柔さと弱さを、今更ながら思い知った。
「す、スイマセン。なんか、暗い話ししちゃいましたね……えへへ、」
なんでアンタが……
言葉のボールを落っことした辺人、口だけが止まる。
繋いだ手と手の点を結んで、線と成した脈拍が、落ち着きを失いブレ始める。
あぁもどかしさとは、やるせなさとはこういうことかと、そんな何の意味も無いデクの棒にもなれぬ小枝 程度の納得だけが、ただこの暗闇の中に茂っていった。
くさかりもできない自分にイラつき、自由な方の手で髪をクシャクシャと掻きむしった。
そんな自分で思っている以上に口下手だった男の、フォローでもしてくれるというのか。
タイミングという奴は、まさにベストと言わんべき名の体現をもって現れた。
「んう……、むぅ…………ん?、おぉ!、」
暗闇を早 数十分と数ヶ月。ようやく辿り着いた先にあった満月と星空。
曇り切っていた二人の虹彩に、流れ星になった彼らは飛び込んで来たのだった。
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