遺人(いびと)

8/8
前へ
/8ページ
次へ
 やがて頭蓋骨と、妙にきれいというか朽ちていない、新聞に挟んであるようなチラシの束が目に入り、通報したのだ。 「それにしても、チラシの裏にこんな不気味なものを書くなよ。つい読んじまったじゃねぇか」  ちょうど読み終わった頃合いに警察は来た。チラシは元の位置に戻しておいた。  一応の連絡先は聞かれたがすぐに開放してくれ、安心する。 「はぁ。今日のところは帰るか」  車に乗り込み、エンジンをかける。何気なくバックミラーを見た。  知らない女が後部座席に座っている。 「……はっ!?」  慌てて振り向けば、やっぱり座っている。  ぼさぼさの髪で顔は全く見えない。 「うっ、はっ……!!」  反射的にドアを開けようとするが、開かない。  すぐ窓の外に、ピンクの小花柄のパジャマを着た女が立っている。  だが、後ろにも同じ女が座っている。 「くっ、あぁぁあ!!!」  アクセルを踏んでも動かない。見れば、足元に女の顔がある。  荒れて伸び放題の髪の間から、濁った眼球と目が合った。  全く知らない女だった。 「お前誰だよ? 早く死ねよ」  ぬるく生臭いにおいでいっぱいになった車内で、すっかり黄ばんだ虫歯だらけの歯を見せる女は、笑っていた。                了
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加