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王都炎上
おお勇者よ死ぬとは何事だ。いや情けないのは国王だろう。魔王軍は宮廷を焼いている。近衛師団は既に刀折れ矢尽き壊滅状態。お抱え占い師が防御呪文で時間を稼ぐ始末。
「どうあがいたって撃退するのは無理だと思いま…」
タロット術者が息絶えた。魔力を使い果たしたらしい。
「閣下、ご決断を!」
家臣が血相を変えて乗り込んできた。翼竜が屋根をついばんでいる。抜け穴はゴブリンとトロールの歩兵に塞がれた。このような軍勢を華麗に蹴散らすべくレベル∞の勇者を雇った。だが彼は法外な報酬を酒池肉林に費やしたあげく脳梗塞で倒れた。
「ぐぬぬ…なぜ予知できなかった」
王は生き残った占術師集団を見回した。そして無言の衆をなじる。パラパラと天板が剥がれる。宮殿は1分も持つまい。幸い王には切り札があった。玉座の裏に密使や替え玉が出入りする召喚門がある。英霊の森には強力な聖神がおり魔王でも篭絡できない。施術者を選抜し転移の準備をさせる。同時に王宮の扉が突破された。
「せめて余の盾となれい」
やおら剣を抜くと家臣の列越しに前衛のオークどもを威嚇する。
「お待ちください」
占い師の一人が進言した。召喚門に異常を感知したというのだ。
「どういう事だ?」
「残念ながら邪の魔力が注入されておりまする。敵の挟撃かと」
手のひらの水晶玉がどす黒い。
「なんと!万策尽きたか」
王は宙を仰いだ。そして眼光をきらめかせた。
「そうだ!敵はゲートの途中におるのだな?」
「はい。毒々しい濁流が注がれております」、と占師。
「ならば目には目を歯には歯をだ。こちらもありったけの魔力を投入せい!」
「そんなことをすればゲートが壊れます。どころか王都が粉みじんに…」
側近たちがざわめく。
「構うのもか!魔王に渡すぐらいなら臣民と共に散ろうではないか」
檄を飛ばすが聴くものはいない。どころか衛兵が制止しにかかった。
「王様がご乱心あそばれた」
十重二十重にのしかかる兵士達。もまれながら王は決死の呪文を唱えた。
「か、対抗呪文を!」
とっさに占い師たちが無効化を試みる。しかし玉座が白熱した。
強烈な奔流は召喚門を打ち破り王宮を火球に変えた。
【パコラ王国に栄光あれぇええ!】
正邪混然一体となって断末魔の叫びを飲み込んでいく。
王都歴117年。パコラ王国と隣国サタニックを含む辺境領は地図から消えた。
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