6人が本棚に入れています
本棚に追加
警察。
(一三)警察
父親の死から一年くらい経った時、突然警察がやってきた。制服の警官であった。二人組でやってきた。
「ごめん下さい。大山さん、警察です。何か近所から異臭がするというのでやってきました。いらっしゃいますか?」
浩輔が応対した。
「何ですか、一体?」
「あのー、お父さんの良一さんはいらっしゃいますか?」
「父は今沖縄にいます」
浩輔は足の震えを隠しながら答えた。真実が露見すれば間違いなく逮捕される。その不安が一瞬よぎった。
「上がらせてもらってもよろしいですか?」
「散らかっていますけど、どうぞ」
父親の死体は納屋にある。なーに、見つかるはずがない。
警察は部屋を隅々まで見てから言った。
「納屋も見せてもらってよろしいでしょうか?」
浩輔は血の気が引く感じを覚えた。「(発覚だ、どうしよう)」
そこで浩輔は言い放った。
「捜査令状はお持ちですか?」
「わかりました。ではいずれ令状を持ってきます」
そして明後日、今度は私服の警官と制服の警官がやってきた。
私服の警官が捜索令状を見せて言った。
「お父さんは一年間も旅に出ているのか?」
「はい」
「嘘は通らへんぞ。認知症のお父さんが一年間も家を空けるんか?」
「とにかくいなくなったのです」
「それやったら何で行方不明の届けをせえへんかったんや?」
「それは、そのー---」
そう言う間もなく、制服の警官が納屋を調べ、樽の中で酒に浸かって死んでいる父親を発見した。
「遺体を発見しました」
「わかった。大山浩輔、死体遺棄の疑いで警察署まで同行願います」
浩輔はもう観念し、従った。
「はい」
こうして浩輔は警察で事情を聞かれることになった。
*
「それでは、あんたは引きこもっていて、お父さんが死んでから遺体を放置してたんやな」
「はい」
「葬式を出す金がなかったということやな」
「はい」
「あんたの罪は死体遺棄と、それからお父さんの年金を受け取っていたので詐欺も成立する」
「はい」
「臭い飯を食うことになるか、よくても執行猶予やなあ。近所の人や妹さんにはどう言って説明するつもりや?」
「---」
「黙っていたらわかれへんがな、何とか言うてみろ」
「父は生きています」
「何?」
「だから父は生きています」
「アホなこと言うな。酒樽の中で死んでたのは誰や?」
「生きています」
「どこに生きているんや?」
「生きています、生きています、生きています!生きています!」
刑事は書記をしていた警官に言った。
「おい、こいつおかしいぞ。今のきちんと調書取っておけ。あんたは留置場や」
「何が詐欺や?行政は何もしてくれなかったやないか?生活保護の申請に行った時も冷たくあしらわれたし、働こうにも五十の壁でどこも採用してくれへんかった。あんたら警察かって仲間やろ!公務員やしな!」
「おい、こいつを留置場へ連れていけ」
二、三人の制服警官が取調室へ入ってきて浩輔を引きずっていった。そこで浩輔は叫び続けた。
「親父は生きてるんや!生きてるんや!生きてるんや!生きてるんや!生きてるんや!」
最初のコメントを投稿しよう!