警察。

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警察。

(一三)警察  父親の死から一年くらい経った時、突然警察がやってきた。制服の警官であった。二人組でやってきた。  「ごめん下さい。大山さん、警察です。何か近所から異臭がするというのでやってきました。いらっしゃいますか?」  浩輔が応対した。 「何ですか、一体?」  「あのー、お父さんの良一さんはいらっしゃいますか?」  「父は今沖縄にいます」  浩輔は足の震えを隠しながら答えた。真実が露見すれば間違いなく逮捕される。その不安が一瞬よぎった。  「上がらせてもらってもよろしいですか?」  「散らかっていますけど、どうぞ」  父親の死体は納屋にある。なーに、見つかるはずがない。  警察は部屋を隅々まで見てから言った。  「納屋も見せてもらってよろしいでしょうか?」  浩輔は血の気が引く感じを覚えた。「(発覚だ、どうしよう)」  そこで浩輔は言い放った。  「捜査令状はお持ちですか?」  「わかりました。ではいずれ令状を持ってきます」  そして明後日、今度は私服の警官と制服の警官がやってきた。 私服の警官が捜索令状を見せて言った。  「お父さんは一年間も旅に出ているのか?」  「はい」  「嘘は通らへんぞ。認知症のお父さんが一年間も家を空けるんか?」  「とにかくいなくなったのです」  「それやったら何で行方不明の届けをせえへんかったんや?」  「それは、そのー---」  そう言う間もなく、制服の警官が納屋を調べ、樽の中で酒に浸かって死んでいる父親を発見した。  「遺体を発見しました」  「わかった。大山浩輔、死体遺棄の疑いで警察署まで同行願います」  浩輔はもう観念し、従った。  「はい」  こうして浩輔は警察で事情を聞かれることになった。 *  「それでは、あんたは引きこもっていて、お父さんが死んでから遺体を放置してたんやな」 「はい」  「葬式を出す金がなかったということやな」  「はい」  「あんたの罪は死体遺棄と、それからお父さんの年金を受け取っていたので詐欺も成立する」  「はい」  「臭い飯を食うことになるか、よくても執行猶予やなあ。近所の人や妹さんにはどう言って説明するつもりや?」  「---」  「黙っていたらわかれへんがな、何とか言うてみろ」  「父は生きています」  「何?」  「だから父は生きています」  「アホなこと言うな。酒樽の中で死んでたのは誰や?」  「生きています」  「どこに生きているんや?」  「生きています、生きています、生きています!生きています!」  刑事は書記をしていた警官に言った。  「おい、こいつおかしいぞ。今のきちんと調書取っておけ。あんたは留置場や」  「何が詐欺や?行政は何もしてくれなかったやないか?生活保護の申請に行った時も冷たくあしらわれたし、働こうにも五十の壁でどこも採用してくれへんかった。あんたら警察かって仲間やろ!公務員やしな!」  「おい、こいつを留置場へ連れていけ」  二、三人の制服警官が取調室へ入ってきて浩輔を引きずっていった。そこで浩輔は叫び続けた。  「親父は生きてるんや!生きてるんや!生きてるんや!生きてるんや!生きてるんや!」
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