2、星さん出社する

1/4
前へ
/14ページ
次へ

2、星さん出社する

2、 「最初はこの国のトップを暗殺するのはどうかなぁ?」  不穏な言葉に起こされ、目を開ける。星さんは俺に馬乗りになり、部屋に入り込んだ朝陽に金髪を輝かせ、朝飯前の口調で続ける。 「首相の前にひーくんの会社の上司だよね!」 「……重い」 「重くない」 「いや、重いです」 「重くないよぉ」 「……分かった。じゃあ、重くないです。けど、どいてくれる?」  両頬をぷうっと膨らませ、残念そうに星さんは俺から離れた。  さっきの体勢もいかがなものかと思うが、二十三歳、独身、彼女が居ない俺からしたら棚からぼたもち的なイベントだ。頬は自然にゆるむ。 「ねぇ、ひーくん、聞いてる? ねぇったら〜」 「聞いてるよ。星さん、俺の妄想の人じゃなかったのか……」 「ただの人じゃないよ。わたし、未来人だから!」 「……ふーん」 「ひーくん、冷めてるぅーっ! 地球征服、乗り気じゃないの?」  朝食の準備をしながら、はいはい、と適当に返事をすると、腕を持ってぶんぶんと左右に振られた。 「征服するって言ったって、未来人の設定も怪しいし、何より、その時計……」  じろりと星さんの腕に目をやる。 「レーザーポインタじゃん。征服できる気がしない」 「わたしはプロトタイプだから、選ばれし者だよ」  えっへん、と胸を張るが、答えになっていない。 「未来人って、商品説明に書いてあったけど、未来ってどこから来たの?」 「ずっと未来。えーっと……、たぶん50年ぐらい?」 「俺に聞く? 頼りないなぁ。仮にも地球の征服に来たんでしょ? 緊張感とか威圧感とか圧倒的な支配力とか、そういったものは備わってないの?」 「キンチョウカン? シハイリョク?」 「え、意味知らないのか……ポンコ、」  最後の一字を飲み込む。  パンをトースターにセットし、卵をフライパンに割り入れる。 「わたしも、朝ご飯欲しい! お腹減った」 「食べるの? 星さん、食事を食べれるの? 未来人ってロボット的なものかと思ってたんだけど……」 「ううん、わたし、人間だよ。遺伝子操作で作られた「未来人」なの」  それって……、クローン?
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加