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2、星さん出社する
2、
「最初はこの国のトップを暗殺するのはどうかなぁ?」
不穏な言葉に起こされ、目を開ける。星さんは俺に馬乗りになり、部屋に入り込んだ朝陽に金髪を輝かせ、朝飯前の口調で続ける。
「首相の前にひーくんの会社の上司だよね!」
「……重い」
「重くない」
「いや、重いです」
「重くないよぉ」
「……分かった。じゃあ、重くないです。けど、どいてくれる?」
両頬をぷうっと膨らませ、残念そうに星さんは俺から離れた。
さっきの体勢もいかがなものかと思うが、二十三歳、独身、彼女が居ない俺からしたら棚からぼたもち的なイベントだ。頬は自然にゆるむ。
「ねぇ、ひーくん、聞いてる? ねぇったら〜」
「聞いてるよ。星さん、俺の妄想の人じゃなかったのか……」
「ただの人じゃないよ。わたし、未来人だから!」
「……ふーん」
「ひーくん、冷めてるぅーっ! 地球征服、乗り気じゃないの?」
朝食の準備をしながら、はいはい、と適当に返事をすると、腕を持ってぶんぶんと左右に振られた。
「征服するって言ったって、未来人の設定も怪しいし、何より、その時計……」
じろりと星さんの腕に目をやる。
「レーザーポインタじゃん。征服できる気がしない」
「わたしはプロトタイプだから、選ばれし者だよ」
えっへん、と胸を張るが、答えになっていない。
「未来人って、商品説明に書いてあったけど、未来ってどこから来たの?」
「ずっと未来。えーっと……、たぶん50年ぐらい?」
「俺に聞く? 頼りないなぁ。仮にも地球の征服に来たんでしょ? 緊張感とか威圧感とか圧倒的な支配力とか、そういったものは備わってないの?」
「キンチョウカン? シハイリョク?」
「え、意味知らないのか……ポンコ、」
最後の一字を飲み込む。
パンをトースターにセットし、卵をフライパンに割り入れる。
「わたしも、朝ご飯欲しい! お腹減った」
「食べるの? 星さん、食事を食べれるの? 未来人ってロボット的なものかと思ってたんだけど……」
「ううん、わたし、人間だよ。遺伝子操作で作られた「未来人」なの」
それって……、クローン?
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